風に詩をのせて…
フュリーが生きてシレジアへ帰還したと知った時、一目会いたくてシレジアへ帰った。
フュリーが二人目の子を身ごもっていると知った時、本当に嬉しかった。
本当は…レヴィンは…偽りの存在ではなく、生き延びたのだと思いたかった。
数年を経て、時が満ちて国を出た時、失う事に後悔も寂しさも無いと思っていたが…
やはり、忘れられないのだな」
フッ…と微笑むレヴィン。
しかし、その微笑む姿は、シャナンには壊れそうな程に哀しく見えた。
シャナンは、しばし時を置いてゆっくりと口を開いた。
「レヴィン王。ひとつ、お節介をやいてもいいですか?」
「……」
「どのような形になろうとも、誰が何と言おうとも、貴方はシレジアの王、レヴィンです」
そう言い残すと、シャナンは並木道を横に外れて歩き去って行った。
シャナンが歩いていく先、並木道に沿う様に建つ建物に身を寄せる若者の姿があった。
シャナンは、何も言わずに通り過ぎる際、その若者の肩にポン、と手を置くと、そのまま去って行った。
二人の話をずっと聞いていた若者は、手にしていたフォルセティの魔道書をそっと大切に握りしめた。
翌日、ミーズ城への足並みを整えた解放軍は、早朝にマンスター城を発った。
「フュリー母さま可哀想。私、お父様を許せない!」
イザークでレヴィンを見て以来、話しかけても来てくれない父に、フィーは怒りと寂しさを混ぜ合わせて兄にそう言う。
素っ気無くてもいいから話しかけて欲しいという思いもあれば、その素っ気無さも許せないという思いもあって、フィーは自分からは絶対に話しかけないと決め込んでいた。
そんな妹が面白いやら可愛いやらで、セティはひとつ息をついた。
そして晴れ渡った空を見上げながら清々しい微笑を浮かべてこう言った。
「父上か…。あの人は不思議な人だ」
己が望んだことなれど
愛しを忘れる事出来ず
光を導く儚き風の心は
永遠に優しく流れゆく