青白い頬のリビオッコ
土埃が漸く晴れた頃、其処には石田三成が唯一人残されていた。
彼は暫く抜刀したまま立ち竦んでいたが、やがて刀を鞘に納めるとその青白い頬を痙攣させて頭を掻き毟り、早口過ぎて何を言っているのかも定かではない呪詛の言葉を喚き散らしながら駆け去っていく。
無論、既に雑賀衆の兵は皆身を潜め、彼の視界に入るものは無人の野に過ぎない。八つ当たりをしようにも当たる相手が居ない為、感情が暴発したのだろう。口元に米粒がついていることにも気付いてはいないのだろうが、――あの状態のままで家臣の前に戻るとすれば、皆真実を告げるべきか否か大層困ることだろう。
「・・・・まるで癇癪持ちの子供だな」
高台からその有様を見下ろして、孫市はやれやれと溜息をつく。
――石田につかなくて、良かった。
あんな大将の下についたら、八つ当たりが五月蝿くて聞くに堪えん。
そう思わず独りごちた孫市の言葉に、背後に控えていた部下が一斉に頷いたことを、三成は知る由も無い。
作品名:青白い頬のリビオッコ 作家名:柘榴