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祭りの後。もしくは、後の祭り。

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祭りの後。もしくは、後の祭り。


「ツッくーん!朝ごはん食べないのー?」
 奈々の呼び声は、丸くなった布団の背中で跳ね返る。
 花火大会の翌朝。
 沢田綱吉は二日酔いであろう頭痛と、とんでもないことになっちゃったという悩みの種が育った頭痛で頭を抱えてベッドに寝転がっていた。
 まさか、雲雀恭弥に襲われて貞操の危機をなんとかのりきったなんて誰にも言えやしない。
 トンファーを握りしめて襲われたことなんて数え切れないほどある。本当に“襲われた”なんて、ほんと、説明することも末代までの恥だ。

 花火大会が終わって、あやしげな雰囲気になったところで『とりあえず呑みません?』と現実逃避だけが理由の提案をして勝手に草壁を呼んで酒宴の用意をさせた。
 だがしかし。
 ——あんのうわばみが…。
 そこそこ呑めそうだとは思っていたが、一升瓶が一本空にしても雲雀は見事なほどに顔色一つ変えずに杯を重ねた。対照的に、綱吉は数杯目で視界が揺れ始めた。直接触られてももう勃ちませんという状態になったので作戦は成功したけれど、このまま寝ては同じことの繰り返しだと必死にランボとフウ太を呼び出して奈々の待つ自宅に戻った。雲雀の事だから綱吉のその思惑を読み切った上で呆れたのか、引き留める素振りも見せなかった。
 しかし、悩みが解決しないとはいえいつまでもベッドで丸くなっているわけにはいかなかった。
 酒混じりの呼気に自ら耐えられなくて、ふらつく足で下に降りた。脱ぎ捨てたスーツ類はすっかり洗濯やクリーニングに回されたのか跡形も無かった。Tシャツに短パン姿で洗顔していると奈々がシーツの山を抱えて入ってきた。
「母さん、おはよう」
「おはようツッ君。ご飯は用意しているから食べちゃってちょうだい」
「うん。ありがとう。ランボ達は?でかけてんの?」
 家の中が静かなのは珍しい。あぁだから心ゆくまで眠られたのかとぼんやり思う。
「イーピンちゃんと宿題をしに図書館に行ったわ。今日までに終わらせないと、リボーン君から怒られるらしいわよ」
 ランボも大変だなぁと台所に入ると、そのリボーン君が涼しい顔でエスプレッソを飲んでいた。
「おはよー…」
「昨夜はお楽しみだったそうじゃねーか」
「ゆ、ゆうべ!?」
 声が裏返る。
「雲雀のとこでしこたま呑んで未成年に迎えに来させるとは立派な大人になったな」
 フフンと鼻で笑いながら新聞を広げる。
 その程度だったら良かったと内心胸をなで下ろす。リボーンに隠し事はできないけれど、まぁあえて言う必要もないだろうしな、とお茶を飲んだ。
「で、雲雀とどう付き合うんだ?」
 まるでギャグ漫画のようにぶーっとお茶を吹き出す。
 昨夜のアレやコレやで頭がいっぱいになる。
 もしかして、リボーンはあの場にいたのか?それとも、夏の手下があの難攻不落のそれこそ蟻一匹出入りできないような並盛財団にも、忍び込んでいるのか。ついでに言うなればどこまで見られて聞かれているのか、聞くに聞けなくて涙が出そうになる。
 リボーンはお小言の続きのように淡々と新聞をめくる。
「つ、つ、付き合うって!?」
「俺は偏見無いからな。まぁ信仰深いファミリーの奴等は眉をしかめるかもしれねぇが、なに21世紀だ。おまえの場合、後継者も必要だから女とも結婚してもらうが、雲雀だったらいいんじゃね?あいつだったら、どんな場所でも送り出す時ためらわねぇだろう?」
「け、け、結婚!?」
「雲雀は俺の方が好きだと思っていたんだけどな。取られちまったな、ドン・ボンゴレ」
 至極残念だ、という口調で、でも残念そうな気持ちなんて微塵も無いリボーンは次々と綱吉に留めを刺していく。
「どこまで知ってる?」
 戦々恐々と伺うドン・ボンゴレに、元・家庭教師の赤ん坊はフッと笑って話を終わらせた。食欲は駆け足で去ったけれども、久しぶりの母親の手料理を胃が欲しがったので箸を手にとった。

 リボーンが情報源の話で、リボーン本人が関わっていなくて、なおかつ綱吉以外に害が無い話は、あっという間に伝播する。
 雲雀も綱吉も町内では有名人だった。もちろん学生時代のイメージで、雲雀といえば学ランの子、綱吉といえばパンツ一丁で走っている子という風に。これ以上ご近所さんから奇異の目を向けられるのはゴメンだと、綱吉は朝の予定をすっ飛ばして雲雀のアジトに向かった。

 昨日と同じような情景が展開されていた。
 綱吉は着乱れた浴衣で、これまた和装の雲雀に押し倒されているという。
『ここから先に入られるなら、お召し替えを』
と、草壁に阻まれて仕方なく着替えて、昨日のアレは無かったことにして候!という気力充分で雲雀のいる奥の部屋に向かった。ふすまをスパーンと開けると商談中だったようでひとがいた。
「あ、すみません」
 雲雀の仕事の邪魔をする気満々でも、第三者を巻き込むつもりは無かった。
 出鼻をくじかれたな、とふすまを閉めるのを待たず、立ち上がった雲雀が裸の片足で止めて、綱吉を体ごとおしやり後ろ手で閉めた。
 綱吉の世界はぐるんと逆転して、閉じたふすまに背中を預けられたかと思うと有無を言わさずくちづけられる。両手首は既に雲雀に掴まれている。重なる唇の間からぴちゃと湿度の高い音が漏れる。
 隣に人がいるのに!
 暴れるに暴れられない綱吉をどう思ったのか、雲雀はくちづけを深くする。
 この人はどこにこんな情熱を隠していたのかと思うほど、熱いキスだった。
 畜生、誤解しそうだと足下から力が抜けてずるずると襖に背中をおしつけたまま座り込み、そのまま畳の上に仰向けに倒れた。その間、ずっと雲雀は綱吉の両の手首を強く握りしめたままだった。
「なぁ恭弥。今のツナじゃなかっ……」
 整えられた庭や、磨き上げられた廊下を反射して部屋の中まで届く鏡のような光に、一際派手に輝く金色の髪を持ち、雲雀のことを恭弥と呼び、綱吉のことをツナと呼ぶ男はこの世で一人しかいなかった。ボンゴレの同盟ファミリーのボスであり、綱吉の兄貴分。ドン・キャバッローネことディーノがふすまをひょいと開けて覗き込んでくる。
 綱吉に雲雀が馬乗りになっている。
 一触即発かと思いきや、綱吉が雲雀に抑えられた片腕をほどいて濡れた唇を隠す仕草で失態に気付く。
「跳ね馬、綱吉は僕の物だからね」
「なっ…!」
 被せてきた雲雀の宣言に綱吉が頬をひきつらせる。
「あー、リボーンが言ってたのは恭弥だったのね」
 そう呟いてディーノはわりぃと呟いて、すーっとふすまを閉じた。
 ディーノさん、という呼びかけは雲雀に吸い取られた。
 その雲雀は額をくっつけて綱吉を見つめる。
「赤ん坊に伝えたら、跳ね馬だけは僕から言えって言われたからね。後は、赤ん坊が伝えてくれるって」
「何を、でしょうか?」
 聞かなくても答は分かっていたが、愚問の一つや二つさせろってんだ!と綱吉は自棄になって聞いてみた。
「きみが僕のものになったってことだよ」
「そこに俺の意志は入らないんですか?」
「無いの?」
『無いね』という答を期待していた。