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祭りの後。もしくは、後の祭り。

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 ドン・ボンゴレになったとしても、世の中の大きな流れは自分を無視して進むものだと思っていた。例えば、ボンゴレブラッド。例えば、守護者。例えば、雲雀恭弥。世の中はいつも強引に自分を振り回すものだと思っていた。
 それの最たる存在である雲雀は、綱吉が自分のものになることを選ばせようとしている。
「言わせてもらえば、きみが先に僕をきみの物にしてるんだけど」
「色々助けてもらいましたけど、アンタ、俺の言うことなんてちっとも聞きやしないじゃないか」
「きみの物になったからといって、言う事を聞く義理は無いじゃない」
「じゃ、俺だってアンタの言うことを聞くつもりは無いですよ」
「だめだよ。きみは僕の好きなものを持ってくるけど、きみは僕から逃げてしまうじゃない」
「雲雀さん、話が通じない」
「単純な話だ。きみを僕でいっぱいにすればいい。僕がそうなっているように」
 ふと、綱吉が持っていた携帯電話が二人から離れたところで震え始めた。バイブレーターの種類から獄寺だと知れる。
 すっ飛ばした午前の予定は調整してもらったからそのことだろう。しかし、雲雀は綱吉の両手首を放そうとしない。
「獄寺君だ。——雲雀さん」
 綱吉の予想に反して、雲雀は手を離した。でも依然、綱吉の上にいたままなので這い出して腕を伸ばした。
「ごめん、どうだった?」
『明日の朝一に変更できました。今、ちょっとよろしいですか?』
 獄寺は妙に感情を押し殺した声音だった。何か問題でも起きているのかと緊張する。
「うん。どうぞ?」
『今、雲雀のところですか?』
 リボーンの悪魔のような笑い声が聞こえた。獄寺が抱える『問題』は自分だった。
「えーっと、うん。ひやあっ!!」
 雲雀が綱吉の背中に乗り上げて電話を当てていない側の耳たぶを舐める。変な声を上げたことを後悔しながら、つくづく人の耳をなめるのが好きな人だと思う。
『10代目!!』
「獄寺?綱吉は今日は預かるから」
『10代目ぇぇぇ』
 雲雀は非情にも一方的に宣言して獄寺の悲鳴をブツ切りにした。
 携帯を背後に放り投げて、背中から綱吉を覆う。
「で、答は?綱吉」
 綱吉は両手を組んだ中に顔を埋める。
 暑い夏の筈なのに、雲雀の体温だけが感じられる。
 仕事の調整は獄寺が泣きながらもやってくれるだろう。
 であれば、今こうやる時間はできていて。
 違う、そんなことを考えるんじゃなくて。
 
 綱吉は両手をついて体を起こし、背中の雲雀へと振り返る。
 見らば切らんの雲雀の切れ長の瞳はいつもと同じように静かに強く自分を見ている。
 この目の中に不安を見つけたことはない。
 まるで未来が見えているかのように、静かにそこに佇んでいる。 
 雲雀の片手を取りその掌を広げる。
 大きな、力強い手にはいつも殴られてきた。
 雲雀の口より雄弁かもしれない。
 ぶっとばされた記憶の数々に思わず綱吉は苦笑する。
 一緒にいた雲雀も、未来の雲雀も、一貫してまっすぐの道を歩いている。
 この人は迷わないのではなくて、確定を持ったことしか口にしないのだろう。
 これまでも、そしてこれからも自分はきっとふらつく。
 選んだ道が正しいのかわからなくていつまでも悩むだろう。
 獄寺や山本は一緒に悩んでくれる。
 了平や自分を信頼して背中を押してくれる。
 クロームやランボは守らなきゃいけない。
 じゃあ、雲雀は?
 ——雲雀はいてくれたらすごく心強かった。実際の強さは元よりその揺らぎのない存在感。きっと自分の元に帰ってきてくれる信頼感。
『あいつだったら、どんな場所でも送り出す時ためらわねぇだろう?』
 リボーンの言葉はそういうことなのだろう。
 守護者は命をかけて戦わなきゃいけない。そんなときに雲雀だけはどんな状況でも涼しい顔をして戦って、帰ってきてくれる。
 
「雲雀さん」

 額をその胸につける。こんなこと素面で正面向いて言えるわけがない。

「ずっと一緒にいてください」
「うん」
 顎をすくいあげられる。見たことのない雲雀の微笑みに頬が熱くなる。
「その代わりっ!」
 雲雀のペースにのせられる前にと慌てて綱吉は付け加える。
「ずっと雲雀さんの傍にはいられません。俺には俺の仕事がある。母さん達の待つ家にも帰ります」
「うん」
 雲雀の楽しそうな顔に呆気にとられる。
「気をつけて、行ってらっしゃい」
 ちゅっとキスをされて頭を撫でられる。
 雲雀の豹変に目をぱしぱしと瞬く。てっきり拘束紛いのことをされると思っていた。
「恭弥ー、そろそろいいか?時間が無くなってきた」
「あぁどうぞ」
 雲雀から身を離してディーノへと振り返る。
「さっき話していた内容はそのままウチで預かるから。経過は草壁にでも連絡させるよ。で、話は終わったのか?」
 イエスともノーとも言えない綱吉を無視して、頭上で会話が続く。
「さっきも言ったように、綱吉はもう僕の物だから手を出さないでね」
「残念」
 ディーノはにっこり笑って綱吉の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「でも兄貴分の接触は許してくれよ」
 瞬間立ち上る雲雀の殺気をディーノは笑い流す。
 なにがなにやらと傍観していた綱吉は、雲雀から肩を引かれて両腕の中にとじこめられる。
「いくら跳ね馬でも許さないからね」
「恭弥ー、今からそんなんじゃ大変だぞー」
 ぐしゃぐしゃっと雲雀の髪の毛までかきまぜてディーノはチャオと部屋を出ていった。
 両腕は綱吉にからんでいたから反撃ができないままだったのは、雲雀にしては本当に珍しい。
 どうでもよくないんだけど、一生懸命な雲雀が見られたことでどうでもよくなった。
 ふにゃっと体の力を脱いて雲雀の胸によりかかる。
 その中の鼓動は綱吉以上に激しくリズムを打っていたから、見かけと全然違うけど、雲雀さんも人間なんだなぁって、笑った。