秋のPledge
その姿を想像したら可笑しかった。そして同時に、何とも言えない親近感が湧いてきた。だが――続いた政宗の、「あいつの野菜は最高に美味いんだぜ? 天下一だと、俺は思ってる」という言葉には、何故かむっとしてしまった。
「おらの米だって美味いべ! 天下一だべ!」
思わず張り合うように声を大きくすると、彼は声を上げて笑った。
「Ha――Great! それじゃ今度は、その天下一の米を一緒に食おう」
そして政宗は立ち上がる。
「次はお前が米沢に来る番だ。そうだな――冬になったら迎えに来よう。俺の城に招待してやるよ」
「冬になったら」
いつきも立ち上がりながら言った。
「もう、戦も終わってらべか?」
「――ああ、きっと、な」
「それなら、その頃政宗は、天下人なんだな」
天下人になった政宗が、自分の作った天下一の米を食べる。それはなんだか、とても素敵なことに思えて、いつきは自然と笑顔になった。
「約束だべ」
「Okay、約束だ」
政宗が差し出した小指に、いつきは自分の指を絡める。その手を何度か上下に大きく振って――そして彼らは手を離した。
「じゃ――俺は帰るぜ、いつき。冬を楽しみに待ってろよ」
静かに笑った政宗は、元来た街道を戻り始めた。来たときと同じように、暢気な風情で。
「まったなー!」
背中に向かい、いつきは大きく手を振った。
「See you!」
政宗は振り返らずに、けれど片手を大きく上げて、いつきの声に応えてくれた。だから彼女は、その姿が完全に見えなくなるまで、ずっと手を振り続けていた。
結局政宗が何のために来たのか、いつきには最後まで解らなかった。でも構わないと、いつきは思う。彼女にとって大事なことは、二人が会って約束をした。その事実だけなのだから。
いつきは田圃に向き直り、深く大きく息を吸った。早秋の匂いが胸の中に満ちていく。
風が吹く。いつきの髪が、大きく揺れる。
そしていつきは、弾む足取りで畦道を家へと戻り始めた。紐の先の蜻蛉が、彼女に負けじと羽を大きく震わせる。
まもなく訪れる恵みの季節。いつきの一番好きな秋。そして今年は――その先にも楽しみが待っているのだ。
満面の笑みを浮かべながら、いつしかいつきは走り出していた。
【終】