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媚薬配合シャンプー

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黒い房が目の前で揺れるたび心がみだれる。込み上げてくる負の感情。

 目線を手元に落とし、斉藤タカ丸はわざと大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

「どうした?タカ丸。具合でも悪いのか?」

 黒板に向かっていた土井半助がチョークを持つ手を止め、振り返る。年下の一年は組の教室で授業を受けている編入生のタカ丸はエヘヘと笑う。

「いえ〜大丈夫です〜」

 愛想笑いはお手のもの。タカ丸の笑顔を見て「わからない事があれば質問するんだぞ」と土井は前に向きなおった。
  隣に目をやると同じ机に座っている三人組は寝ていたり、落書きをしたり、通貨単位のついた数字を計算したりしている。その中の一人、きり丸が手を止めてタカ丸に小声で話しかけてきた。どうやらタカ丸の溜息の原因に気づいたらしい。

「タカ丸さん、土井先生どうやらシャンプー切らしちゃって石鹸で髪洗っているみたいっすよ」

 少し前、タカ丸が作った髪用調合液を無理矢理押しつけるような形で土井に渡した。その効果は目に見えて現れ、土井の髪が健康的な髪に変化していく様子はくのいち達の話題となった程だった。その時の髪は完璧ではないにしろタカ丸の許容範囲だったのに、最近の見かける度に痛みが酷くなっている土井の髪を近くで見てしまった今日、怒りにも似た感情が沸き上がった。
 がっくりと項垂れるタカ丸に「早くシャンプー調合してあげてくださいね、先生気に入ってたみたいなんで」と言ってきり丸は手元に目を落とし再度計算を始めた。
 タカ丸はその日の授業はほとんど頭に入らず、視線を苛立ちの対象物から逸らすことで精一杯だった。



 夜、タカ丸は新たに調合した作品を持って土井を風呂場の前で待っていた。土井の特に傷んだ髪用に作った自信作を目の前で使ってもらうために。
 しかし、いつまで待っても待ち人は来ず、とうとう風呂当番の生徒に消灯を任されるはめになってしまった。
 忍者は体臭を特に気にするものだと教わったし、毎日風呂にはいっている教師が今日に限って風呂場に来ないなんてことはあり得ない。
 タカ丸は普段あまり行き慣れていない教職員専用の長屋へと足を進めた。土井の部屋へ向かう途中、同室の山田伝蔵と廊下で会ったので土井の事を尋ねると、焔硝倉に居ると言うのでそちらへ向かった。

 人気のない裏庭を抜け、手にした行燈を地面に置き焔硝倉の重い扉を開ける。内部は火気厳禁なので頼りになるのは格子窓から差し込む月明かりだけだった。それでも、目が慣れるまで何も見えないと言うに等しい。タカ丸はむせる様な火薬と埃の臭いに眉をしかめる。その時、二階から階段を伝って人が降りてきた。

「どうした?タカ丸か?」

 頭巾を取って鼻と口を覆った土井が話しかけてきたが、タカ丸からは真っ黒の人影にしか見えない。
 新しい髪の調合液を作ってきたことを伝えると、土井は口布をずらし、少し困ったように笑いながら言った。

「授業中、おまえの視線を妙に視線を感じると思っていたが、やっぱり髪が傷んでいるのバレてたか。」

「わかりますよ!せっかくいい具合に修復していたのにツヤもコシもなくなって、パッサパサのボッサボサじゃないですか!だから前に作り置きの分もお渡しすると申し上げたのに〜」

 いつものタカ丸らしく少し口を尖らせて言う。自分の意見を伝えるときもゆっくりと柔らかく喋ると相手に警戒心を抱かせない。その話し方も生来、身についている。
 土井はいや〜だけどなあ〜と言いながらワシワシと後頭部を掻いた。
 ああ、髪の軋む音が聞こえる、その手を止めろとタカ丸は心の中で舌打ちをする。

「タカ丸が私の為に作ってくれているのは有難いけど、…もうそれはいらないよ」

 土井の言葉に一瞬驚き、タカ丸は全身の筋肉凄まじい速度で固まってゆくのを感じた。言葉が出ないかわりに、タカ丸のつま先が地面をジリッと擦った。ばつが悪そうに目を逸らし、土井は申し訳なさそうに言った。
  
「わざわざ私の髪の為に時間を割くことはない。お前は他の生徒よりも学ぶことが沢山あるだろう?そういった事に時間を…」

「それとこれとは関係ないです。僕が先生の髪の調合液を作ることで勉強に影響が出るなんて事はあり得ません」

 タカ丸は自分から発せられた低く冷たい声に驚いた。
 いつも他人と向き合う時は職業柄、自動的に笑顔となるはずなのに今は顔の筋肉に力がはいらない。

「何か、先生のご迷惑になる事がありましたか?改善すべき所があるなら教えてください!」

「いや…そんな事はないよ。タカ丸のせいではないんだ。私の傷んだ髪を気にかけるよりも、もっと…」

「そんなの!理由になりません。もし僕の成績がそれで悪くなっているのなら、おっしゃる通りかもしれませんが、きり丸は先生が喜んで使って下さっていると言っていました。それは、嘘ですか」

 わずかにタカ丸の言葉が震えた。自分は間違った事は言っていないはずだ。元から器用な性格だから、授業で習った事は頭に入っているし成績が落ちたことはない。同学年の友人達の趣味である過激な武器や仕掛け罠など、高度な技術まで同時に学んでいる。
 土井は予想以上に喰いついてくるタカ丸の反応に少し動揺をしているのか、困ったような笑顔は崩さず片手を胃のあたりに置いていた。

「嘘じゃないよ。お前のつくる調合液は効果がある。目に見えて私の髪に効果があったから、驚いたきり丸も使ったんだがあまり彼には変化はなくてな。やっぱりこれは私専用に計算されていたんだと感心したよ」

 あたりまえだろ、あんたなに勝手に人に使わせてんだ、とタカ丸は言ってやりたかったたがそれよりも土井の拒絶の理由が知りたかった。知ったとしてもそれを許さないような獰猛な感情も腹の底に垣間見えた気がしたが、今は気付かないふりをした。

「先生、僕は納得できません。良いと思ってくださったなら続けてくださればいい。もう使わない、という理由は何ですか。教授の関係であるからなどと、つまらない事はおっしゃらないでください」

 タカ丸は握った手に力を込めた。土井を見る目に力が入り、のらりくらりとした言い訳を聞くつもりはないと訴える。
 その視線から逃げるように土井は少し天井を見、軽い溜息と共にタカ丸に向きなおる。

「…とにかく、おまえの好意は嬉しいけど、もうこれ以上私の髪の事を気にかける必要はない。さあ、おまえもそろそろ部屋に戻れ。私はまだ片付けが残っているから…」

 早くこの話を終わらせようとしているのだろう、土井は教師的な口調で言い放った。一方的に話を終えた土井は口布を整えながら作業途中の二階へ再び上がろうと踵を返す。
 闇の中でさらに暗い色をした土井の髪が揺れたその瞬間、タカ丸は腹の底に隠れていた獰猛な何かが沸き上がってくる感覚にとらわれた。考えるよりも先に手が動いた。
 背後から突然両肩を掴まれた土井が驚いたように振り返る。

「土井先生、風呂は!?入りましたか!?」

 微かな月明かりの中、土井の瞳がこちらを見ているのがわかる。頬に落ちる睫毛の影にタカ丸はゾクリと震えた。土井の声が口布の奥から「いや…」と響く。
作品名:媚薬配合シャンプー 作家名:aya