I couldn't say " ".
「…あ、もうそろそろお暇しましょうか」
「え、今何時?」
「19時っすよー」
久々のオタク談議に花を咲かせ、いつの間にか入店した時から2時間以上経っていた。
驚いた私に対し、いそいそと支度を始めるゆまっちに、私はついに声を掛けた。
「…ねえゆまっち、あれから後部座席に誰かいる?」
ぴたりとゆまっちの動きが止まる。
物凄く遠回しな言い方、それでもゆまっちには通じてくれたようだ。
「………どうしてそんな事聞くんすか」
「…え?」
「いないっすよ」
「…そ、っか」
それまで話していたような明るい声とは一転、怒ったような
それを押し殺したような低めの声で目の前の友人は言葉を紡ぐ。
「狩沢さんは、まだ俺らの中に居るんすよ」
「………」
「ワゴン車の後部座席の片側は、貴女が来ない限り永遠に空席です。
誰も乗せません、誰ひとり乗らせません、ずっと、ずっと、」
狩沢さんが戻ってくるのを、俺らは待ち続けているんです。
最後の方は、涙が入り混じったような声。
ゆまっちは言い終わると、二人分の代金をテーブルに置いて
俯いたまま足早に店を出て行った。
そんな、泣きたいのはこっちだよ。
私、私は、まだ、
I couldn’t say 〝 ".
(私は何も言えなかった)
(何も言う権利が無かったから)
(ごめんね、弱虫で)
作品名:I couldn't say " ". 作家名:日丘