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たかべちかのり
たかべちかのり
novelistID. 692
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叶えて

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「ふざけて、ないよ」
臨也の声は震えて、だんだん小さくなる。
こんな折原臨也は初めて見た。
いつも余裕しゃくしゃくで。
嫌な笑みを浮かべて、人を見下した態度で人類を愛すると言うこの男が。
「…この間のキスして、止まんなくなった」
「あん時、熱あったじゃねえか」
「うん。だから自制きかなくて」
「お前は…誰だ?」
「俺は折原臨也だよ」
自明の理のように答えた。
「本物か?」
「さすがに変装技術は身に着けてないよ」
気がつけば手を握られていた。
静雄は、他人と手をつないだ記憶がほとんどない。
だからその熱さに驚いた。
触っていられないくらいの熱。
その手は少し震えていて。
なんとなく小さいころを思い出した。
最後に誰かと手をつないだのはいつだったろう。

「…どうして欲しいんだ」
「え?」
「俺が好きってンだろう? で、俺にどうして欲しいんだ?」
頭はさっきから起こる出来事についていけない。
考えることは苦手だ。
そんな時はいつも心を開放することにしていた。
それが最も後悔の少ない方法だと知っている。
――だったら、このまま本能に任せよう。
心臓は早鐘のように鳴ってうるさい。

「キスしてほしい」

これからどうしていけばいいのかわからないし、どうなるかもわからない。
けれどとりあえず、目の前の男の願いを叶えることから始めてみようか。
それから考えよう。
おそらく、悪い気はしない筈だ。
静雄は臨也と握ったままの手を引っ張りよせ、そして、叶えた。
作品名:叶えて 作家名:たかべちかのり