叶えて
「ふざけて、ないよ」
臨也の声は震えて、だんだん小さくなる。
こんな折原臨也は初めて見た。
いつも余裕しゃくしゃくで。
嫌な笑みを浮かべて、人を見下した態度で人類を愛すると言うこの男が。
「…この間のキスして、止まんなくなった」
「あん時、熱あったじゃねえか」
「うん。だから自制きかなくて」
「お前は…誰だ?」
「俺は折原臨也だよ」
自明の理のように答えた。
「本物か?」
「さすがに変装技術は身に着けてないよ」
気がつけば手を握られていた。
静雄は、他人と手をつないだ記憶がほとんどない。
だからその熱さに驚いた。
触っていられないくらいの熱。
その手は少し震えていて。
なんとなく小さいころを思い出した。
最後に誰かと手をつないだのはいつだったろう。
「…どうして欲しいんだ」
「え?」
「俺が好きってンだろう? で、俺にどうして欲しいんだ?」
頭はさっきから起こる出来事についていけない。
考えることは苦手だ。
そんな時はいつも心を開放することにしていた。
それが最も後悔の少ない方法だと知っている。
――だったら、このまま本能に任せよう。
心臓は早鐘のように鳴ってうるさい。
「キスしてほしい」
これからどうしていけばいいのかわからないし、どうなるかもわからない。
けれどとりあえず、目の前の男の願いを叶えることから始めてみようか。
それから考えよう。
おそらく、悪い気はしない筈だ。
静雄は臨也と握ったままの手を引っ張りよせ、そして、叶えた。