叶えて
声は思ったよりかすれている。のどが渇いた。
そして昨晩のことを思い出して舌打ちをする。
しくじった。
適当に煽って、逃げようと思っていたのに、引き際を間違えた。
今頃血眼になって捜しているだろう。手を打たなければならない。
臨也はデニムのポケットから携帯を取り出す。
そしていくつかのメールを送信して息を吐いた。
臨也は部屋を見渡す。
(シズちゃん、意外と綺麗好き…?)
てっきり小汚い部屋を想像していたが、部屋はモノがきちんと整理されている。
部屋をもう少し見ようと寝返りをうつ。
ソファーにいたままだったが、布団がかけられていた。
その布団からふわ、と布団からこの部屋の主の匂いがする。
彼自身と、香水と煙草の混ざった匂い。
(銘柄、ラッキーストライクに変えたんだっけ…?)
くん、と匂いをかぐ。まるで静雄が体を包んでいるような錯覚を起こる。
その彼と、キスをした。
彼は怒っていた。予想通りの反応だ。
臨也は思い出しながら、顔が赤くなるのを感じる。
もっと触りたいなあ。と思う。むずむず体が反応する。
(こらこら俺。落ち着け)
落ち着かせようとするが、熱はさがりそうにもなくて。
キスとそれから、それ以上のことを考えながら。臨也は事を済ませた。
3日目の夜、部屋に戻ってみれば臨也はいなかった。
ほっとして、鍵をかける。
鍵は変える必要があるな、と思いながら静雄は窓を開けて煙草に火をつけた。
新羅の家では「セルティが煙草嫌いだから禁煙禁煙!」と言われあまり吸えなかった。
やっと一息つける、と思った時。
がちゃりと鍵の開く音がした。
「やっほーシズちゃーん。電気くらいつけようよー」
「…ってめえ、合鍵でも作ってんのか!!」
「え、やだなーそんなわけないじゃん。ピッキングピッキング」
へらへら笑って臨也はヘアピンをどこかから取り出した。馬鹿な。
鍵はもっと高性能なものにしなければならないらしい。
静雄は落ち着こうと煙を肺一杯に吸い込む。
「この間はありがとね」
「ぶはっ!!」
この男から出そうもない発言を聞いて、静雄は思い切りむせた。
煙が妙な所に入り込んだらしく咳き込んだ。
「あっははははは。シズちゃんおっかしーの」
「臨也てめぇ殺すぞ何しに来た!!」
「んー。シズちゃんに、愛の告白に参上しました」
「頭、大丈夫か」
「好きだよ」
「ふざけるな」