二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

青を歩く

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
 ざわりざわりと波がゆれていた。そのたびに白い泡がたち、青いあおい海に深くふかく模様をつける。そのくらい、鮮やかな青だった。まるで水そのものが青く染まっているかのような、けれどそれを両手にすくってみてもそこに見えるのは肌色の手のひらのみであることはわかりきっている。見あげる空は海のそれより随分と薄く、かんかんと照らす太陽のせいもありほとんど白と見えるときもあった。薄く開けた瞼の間から目をこらして上を見つめ、耐え切れなくなりぎゅっとつむり、再び開けた先の世界はやはり青い。
「青いなあ、」
 そう臨也は呟いて、同意を求めるかのように波江の方へと振り向く。予想していたよりずいぶんと遠いところに彼女は立っていたため、彼は少しだけ驚いてしまう。こんな小さな声で言った言葉なんて彼女に届くはずがない。小さく息をついて、平行線上に立っている彼女をそのまま眺める。


 波江は白いアンティーク調のブラウスに、淡い紺色のフレアスカート姿だった。足元は軽いレザーサンダルだ。普段の服装ではないのは臨也も同じで、黒い半そでにチノパンの裾をまくっていた。待ち合わせ場所としていた自身のオフィスがあるビルの前で顔を見合せ、お互いに「似合わない」と感想を言い合った。「いや、ちがうな」と言葉を続けたのは臨也のみであった。
「慣れない、かな。似合ってはいるよ」
「貴方は違和感の塊ね。違和感そのものだわ。言い換えるなら気持ち悪い」
 仏頂面で波江の返す言葉を、彼は肩をすくめる動作ひとつで受け止める。彼女は訝しげにひと睨みを残し、小さな籠バッグを手に臨也の用意していた車の助手席にするりと乗り込んでしまった。俺ってそんなに信用ないかなあ。そんな普段の行いを棚に上げるような独り言をもらして、彼はぽつりと残された彼女のボストンバックを車のトランクにしまうためそれを開ける。
「ちょっと、丁寧に扱いなさいよ」
「はいはい」
 適当に返事をすると、振り向いていた彼女と目が合う。薄暗い車内で、彼女の黒目がちかちかと光っていた。たまらず臨也は目を反らし、トランクを下ろし鍵をかける。少し乱暴な動作をしてしまったが、彼女の機嫌をよりいっそう悪くする要因にならなければいいけれど。
とにかく、運転席に着いたならばすぐに明るい場所に車を出そう、と彼は思う。ここは高いビル群のせいで影が多すぎる。白いブラウスの袖は、ふわりと丸かった。

*
作品名:青を歩く 作家名:よここ