入水願い
「恨んでなんかいない。怒ってるわけでもないんです。だからいたぶってるんでも、仕返ししてるんでもないんです。僕は、あなたを、・・・・・だから、」
でも。
見つめたまま一息にそう言うと、帝人は声を詰まらせた。瞳の色が深くなる。水色が深みを増して、底に何かがあるような、沈み込んでしまいそうな、瞳が、闇の中で再び伏せられようとしたところで、言った。
「連れていってくれますか。」
「っ、」
初めて会った時から、そして今も。
その目が好きだった。年甲斐もなく翻弄されて。伏せられるのは惜しいと思った。
それだけだったし、理由はそれで十分だ。
「こっちを。」
見てくれないか、と、力のない声をかければ、応えて瞳の大きな目を向けてくれる。
薄闇の中で、部屋に漏れ入るネオンの光を僅かに弾いて濡れている。帝人は泣いていた。
ただし表情に迷いは無い。
四木を見つめて、のしかかったまま膝を立てて四つん這いに動き、顔を寄せる。
「連れていってください。私も。」
確かめるようにもう一度懇願を。
そうでなければ喰らい尽くしてほしい、と。
伝えるまでもなかったことを、そのすぐあとに、知った。
END