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夕日と星空と僕等

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時計の短針はもう夕方をとうに過ぎ、時間は空を次第に黒く塗りつぶして行く。
 リュウタロスは、公園で猫たちと遊んでいた。動物が集まりやすい場所は、何故か自然と分かって、リュウタロスが近付けば動物たちはとりわけ怯えることもなく、その腕に抱かれるのだ。
 今日は、リュウタロスが良太郎の身体を使ってもいい、という日だった。
 デンライナーの中に居るだけでは退屈だろうと、時間を決めての良太郎からの提案だった。
 今日は、動物と遊ぶ日にしたのだった。
 突然、腕に抱いていた猫がするりと逃げ出した。
 続いて不意に感じた人の気配に、リュウタロスは耳を寄せた。
 そしてすぐに、その気配は自身のよく知るものだということに気付いた。
「野上」
「…桜井侑斗」
「って、お前か」
 声に振り返れば、そこには侑斗の姿があった。楽しい、だけに占められていた心が底の方でさざめく。
 多分、良太郎に用があるのだろう。
「何か用?猫さん、逃げちゃったじゃん」
「野上にな」
「ふうん」
「野上に代われよ」
「やだ」
 猫を逃がして不機嫌なリュウタの返事に、思わず侑斗は眉間の皺を深める。
「だって、デンライナーに帰るまで使っていいって、良太郎が言ったもん」
「…………」
「だから、今は僕のだよ。ね、良太郎」
『うん、そうだけど…もう遅いから、そろそろ帰らなきゃ』
「ええー!まだ遊びたいよ!」
『でも、もうすぐデンライナーの乗車時間になるし、これ以上遅いとみんな心配するよ』
「…はぁい」
 デンライナーへと帰宅を促す良太郎の言葉に、リュウタは侑斗に向き直った。
「帰るって」
 不機嫌さを露にした顔で侑斗を一瞥すると、リュウタはくるりと踵を返して歩
き出す。
 軽快な足取りで進むリュウタの隣りには、すぐに侑斗の影が並んだ。
「来るの?」
「一緒に行った方が二度手間にならなくて済むだろ」
「…ふうん…」
 別にいいけど、と小さく呟けば、少し背の高い身体がリュウタロスの頬に影を落とす様に歩幅を合わせた。
 デンライナーの乗車時刻までは、あと少しだけ時間がある。持て余した時間を二人は話すこともなく、無言で当てもなく歩き出す。
 リュウタロスは、自分の横へと自然に並んだ気配が、かつてよりも不快なものではなくなっていることに気付いた。
 何故だろう、と口には出さずに考えれば、すぐにあるひとつの結論が思い当たる。
(お姉ちゃんの匂いが薄くなってる…)
 良太郎に憑いた時からリュウタロスの慕う彼女の匂いが、侑斗からはいつもしていたのに。それが希薄になっていることに初めて気付いた。
 カードが、掌から朽ちて消える光景を、今までに何度も見て来た。そのうちの一枚は、自分と闘って失ったものだ。
 カードに限りがある。だから自分は極力闘わない、と言った。カードを使えば、彼の存在は薄れてしまう。それはきっと、当然の行動だ。
 それでも彼は、いつからか、カードを使うことを厭わなくなった。
 時の運行を守るため。愛理を守るため。
 カードを消費し、変身するだけのまっとうな理由が、良太郎達と過ごす中で、いつしかそれだけではなくなっていったのか。
 リュウタロスが、カイとそのイマジンに襲われた、あの時ですら。彼には一瞬のためらいも見られなかった。
(…でもそれは、良太郎の身体だったからだろうけど、)
 いつの間にか、リュウタは睨む様に、侑斗のことをじっと見ていた。
 そんな不躾な視線にいたたまれなくなったのか、怪訝な顔をした侑斗が、リュウタロスに尋ねた。
「なんだよ」
「別に」
 答えを返すリュウタに侑斗は黙る。しかしその視線が外されることはなく、痺れを切らした侑斗が苛立ちを込めてリュウタに声を掛ける。
「おい」
「……お前さ、なんで闘ってんの」
「………は?」
 思わず口をついた言葉は、普段意識したことなんてないものだった。
 今更それを聞くか?というニュアンスを含ませ、侑斗が思わず呆れた声を出す。
 そんなの、わかりきっていることじゃないか。
 自分が何を言ったのかに気付き、リュウタロスはかすかに動揺するも、無意識に紡がれる言葉はそのまま止まらなかった。
「お姉ちゃんの記憶から自分が消えるのわかってて闘うのなんて、なんのために」
「……未来の自分と、彼女のためだ」
「…でも忘れられてるじゃん」
 未来の侑斗も、現在の侑斗も。
 恋という感情ではないにしろ、今の侑斗なりに、彼女のことを想っていること。
 かつてとは、明らかに変わった目差しは強く、。
 自分が持っている、数少ない侑斗に関する記憶を手繰れば、心がざわざわと荒れる。
「それに、侑斗が、お姉ちゃんのこと好きでも意味ないじゃん」
『リュウタロス!』
 苦く、小さな声で呟く。良太郎のたしなめるような声が頭に響いたが、構わなかった。
 それは、悲しげな響きを帯びているようで、かすかな諦念も滲んでいた。
 まるで、自分にも言い聞かせているみたいに。
 どれだけ、好きでも。
 実体のない自分にとっては意味のないこと。
 それを思い知ったのは、ついこの間の話だ。
 けれど、目の前の彼だって、自分と同じ想いを抱えている筈なのだ。きっと。
 それがどのくらいの時間だったのかは、リュウタロスには分からなかった。押し黙ったまま歩みを進めると、時折侑斗からの視線を感じた。
「…………」
「…………」
「…………」
「………それでも、」
 先に沈黙を破ったのは、侑斗だった。
 侑斗は、反応を見せないリュウタロスに再び視線を寄せると、きっぱりとした口調で告げた。
「闘う理由にはなるだろ。…それに、」


「それはお前の方がよくわかってんじゃねえのか」


 自身を向けて、はっきりと告げられた言葉に、足が止まった。
『………侑斗、』
 自分達イマジンが、このまま闘えば消えてしまうことを、知っているのか。
じゃなくて。
ただ、好きだから、闘うんだということ。
 良太郎や愛理が笑う大切な自分の世界を―今を守るために。
リュウタロスは立ち止まり、黙って遠くに視線を放った。
とんと暗くなった夜空には、大小に光を放つ星が散らばってていた。景色に、一瞬にして視界を奪われる。
「あ、星。」
「…聞いてんのかよ」
 途端に意識を逸したリュウタロス、侑斗はいささか不愉快な声を出す。自身もそれに倣っては、同様に視線を空へと向けた。
「オリオン座だな」
 侑斗は瞳のその先に、自身のよく知る星を見つけたのか、彼はその星座について話し出す。その語り口はいつもよりも流暢で、唇は緩く笑みを描いている。
 侑斗の説明する星座というのが、どの星たちを指しているのかも知らないリュウタロスには、侑斗の言うことは半分も分からかった。しかし、一人で嬉しそうな表情に何故か瞳は吸い寄せられた。
(こうしてる時だけ雰囲気違う)
 不思議そうにじっと見つめるリュウタロスの視線に気付き、途端に侑斗は顔を背けた。
 その仕種は、ある意味照れていたようにも見えたけれど、その顔が本当に赤かったかどうかは、夕闇の中では確認出来なかった。
「…よくわかんないけど、」
「…………」
「嫌いじゃないよ」
「あぁ」
「きらきらして、キレイだし。それに、お姉ちゃんが好きだから、好き」
作品名:夕日と星空と僕等 作家名:あねよ