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私の願い

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『最初の願い』


 大きな抗争の最中だと聞いていた剛は、詰所とされた広間に集まった連中の緊張感のなさに唖然とした。引っ張り込まれないように柱の影に隠れ、刀を抱えたまま腰を下ろすと懐から夜食用の塩むすびを取り出し、包みを開く。かぶりつきながら剛は彼らを観察した。
 酒こそないものの、彼が想像するものとは違い皆普段からそうであるように語らい、コーヒーを飲み、昼寝をしているやつまでいる。
(所変われば、っては言うが……なんでぇ、しまりのねぇ)
 緊張で重苦しい表情をしているのは、これが初めての抗争になる数人の若者くらいだ。談笑している連中より彼らの方がまだマシかと思ったがそんなものは一瞬で、背後から蹴り倒してやりたくなった。
 その矢先、人の間を泳ぐようにして彼らと言葉を交わしている青年が目に止まった。ボア付きのジャンパーと汚れたニッカボッカに安全靴と、まるで工事現場の作業員が紛れ込んだような姿ではスーツ姿の中では目立って当然か、と思い、口の中の米を噛みしめる。拙い言葉で厨房を借り、持ってきた米で作ったものだが水のせいかそれは柔らかく子供の食事のように感じた。
 柔らかい米の感触にがっかりして首を傾げつつ、ふと青年の背中を追うと、彼はあの若者たちの所にいた。彼らの肩を抱き、言葉をかけている。若者の表情から次第に緊張の色が消えていくのを横目に見た。なぁに無茶に突っ込んでいく必要はねぇ、頭ははっきりさせておけ、周りを見ろよ。全ては理解できないが、聞こえた単語から予想すると、そんな当たり前のことを言っているようだ。
(……くだらねぇ)
 がふ、とまた塩むすびにかぶりついた時、
「よぅ、あんた助っ人の日本人だってな!俺ァ、沢田家光ってんだ」
 青年がそう声をかけてきた。剛は噛み分けた米の塊を口の中で咀嚼しながら青年を見上げた。
 沢田家光。今回の雇い主であるボンゴレファミリー、その初代の血を引く男で若手のホープだと名前は聞いていたが、本人を見るのは初めてだった。家光は何が楽しいのかにこにこと笑っている。客分である剛への媚も諂いもない、かといってこちらの緊張を解そうとしているわけでもなく地顔なのだろう、天真爛漫な笑みと言えた。
「あんた、名前は?」
 家光は、むすりとして立ち上がる様子のない剛の前に膝を開いて屈みこんだ。
「……剛。山本剛」
「剛。よろしく」
作品名:私の願い 作家名:gen