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【ヘタ百合】Happy Toy【普♀×洪♀】

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*** *** ***
「合コン?」
銀髪の下で飴玉みたいな赤紫の瞳がくるりとこちらを見た。
「そ。相手は大学生だし、きっと楽しいわよ」
興味なさそうに視線をそらされる前に、早口でしゃべる。
口の中で棒付きキャンディをもごもご転がしてから、マリアはゆっくりと私を見つめ直した。
「彼氏作るの? その大学生の中から」
制服の短いスカートのままで、机に足を預けて椅子にもたれかかる。
マリアはギィギィと古ぼけた椅子を軋ませながら揺らして、飴を口から引っこ抜いた。
「せっかくの高校生活、彼氏ナシで終えるつもりなの? マリア」
「リズこそ、部活してバイトして委員会して、彼氏まで作ったら過労死すんじゃね?」
幼馴染ゆえの気さくな物言いが、今日は(今日も!)カチンと来た。
すらっと長い手足、私より頭半分高い身長、けだるげなマイペースさを表してるみたいな、伸びっぱなしのプラチナブロンドが無造作な色気を醸し出している。
こんな美少女見たことない、と思う。

昔は2人とも、男の子に間違われるようなワンパクで、似た者同士と笑われていたけど、今はこんなに違ってしまった。
長くのばしてみた髪とは裏腹に、私の背はマリアほど伸びなくて、足もマリアみたいに細くない。
農耕馬みたいな実用性重視の足、重量型のお尻。甘いものを我慢しても、顔色が悪くなるだけで体型は変わらなかったからダイエットは諦めてしまった。
食べても太らないと言って、食べざかりの男の子みたいにサンドイッチを頬張るマリアに無闇に八つ当たりしたことだってある。
知らないうちに、せっかくセットした毛先のカールを指に巻き付けてぐいぐい伸ばしているのに気付いて、手を離す。

「だって、もったいないじゃない」

あんたが、とは言えなかった。
そうやってすっきりさっぱり、何事も自分の気が向いたようにしか動かないところまで全部含めて、あんたがうらやましいの。
そんなの、言えるはずない。

昔は一緒だったのに、どうしてこんなに差がついちゃったんだろう。
うなだれた頭を、犬か何かみたいに撫でられて顔を上げる。
「何よ」
口をとがらせて睨むと、マリアが片頬で笑った。
「何時? 待ち合わせ前にメールちょうだい、忘れるから」
「来てくれるの?」
思わず勢い込んだものだから、マリアがバランスを崩して椅子ごと床に倒れ込んだ。
「わあ、ごめんマリア!」
「ってー…!? リズ、必死すぎだろ!!」
大好きなハスキーボイスに歯を剥いてイ―!!ってしてから、カバンを抱えてかけ出す。
「こらおま、何その態度! リズ!!」
教室のドアを引き開けて廊下に顔を出したマリアが叫んでいたけど、立ち止まらなかった。

***

起床時間、支度開始の時間、家を出る時間、と3回電話して、マリアはなんとか定時に待ち合わせ場所に現れた。
パーカーにジーンズで、風船ガムを膨らませながら。

「ちょっ…」

白いワンピースなんか着てきた私が逆に浮いちゃう。せめてピンク色のカーディガンをやめてモノトーンにしておけばよかった。
緊張しすぎとか、気合い入れすぎとか、思われたらどうしよう。
心当たりがありすぎて泣きたい。ていうか、もう半分涙目だった。
マリアと合コンなんて初めてだったのに。

力の入った肩に、ぽんと大きな手が置かれた。
「2人とも可愛いよ。じゃあ、行こうか」
友達に紹介された大学生は物慣れた感じで、肩に手を置くのも引き寄せるのもスマートだった。
ふと見るともう一人はマリアの肩を抱こうとして、軽く身体をひねってかわされていた。
私は、マリアより先に肩に触れられたことにちょっとだけほっとした。
がんばって、がんばったら、マリアよりもうちょっと可愛い色っぽい女になれる。
…なれなくは、ない、ハズ。

「エリザちゃんはさあ」
さりげなく肩を撫でられて思わずびくっとしたら、笑いかけられてぎくっとした。
「可愛いよね、素直で」
意味が分からないけど褒められてる、っぽかった。
「びっくりしたり恥ずかしくなったりが、顔に出やすいっていうか」
だからなんだろう。それって長所かな。でもたぶん褒めてるんだよね…?
眉間にしわが寄る。

「考え込まなくていいからさあ、カラオケ入ったら緊張ほぐすためにゲームしようか」
「おー、いいね」
大学生二人が盛り上がってる。
マリアがぱちん、と風船ガムを割った。

*** ***

男の人の体温が近くて怖い。
握りしめたクジを恨みながら縮みあがる。

「ね、ちょっと触るだけだから」

そんな身構えなくて大丈夫、とその人は笑ってる。

「でも」
声が裏返りそうで、裏返ったら喜ばれそうで、きちんとしゃべれる声を出そうとしたらものすごく小さな声になった。
「おっぱい触るんじゃないから大丈夫」
彼の手が、私の胸から1センチ離れたところで胸に沿っておわん型に形を作る。
「ちょっとチューするだけだって。ゲームだからそれ以上しないし」

カラオケBOXに入ったところで、大学生たちは勝手に盛り上がって割り箸に番号を書きだした。
王様ゲームしようよ、と差し出されたクジを引いて、私と、さっき肩を抱いたのとは違う大学生がペアになって、キスをしろっていう命令が出た。
断ろうと思ったら、ぴったり隣に座って顔を寄せられて、こんな風に隅っこに追い詰められた。
いまさらだけど、本当にいまさらだけど、私、こんな慣れた風に女の子を追い詰める彼氏はいらない。
っていうか、彼女にしたい女の子にこんな風に迫る男はいるの?

マリアは反対側の隅に追いやられていて、命令権のある王様クジを引き当てた大学生にしきりと話しかけられている。

「それとも、ちゅーがそんなにいやだったらちょっとだけ触らせてくれる?」
胸の上で止まってた手がちょっと下がる。

「やっ」
「おおー。かんわいいなーエリザちゃん、声すんごい可愛い」

どうしよう、この人達怖い。

マリア、マリア、無理やり連れて来ちゃったのに、どうしよう。
ヤバいよね、絶対ヤバいよね、マリアまで危ないよね。

「涙目ー。何、そんな怖がらないでよ、チュー初めてなの?」
「っ、…さい」

だって彼氏なんかいなかったもん。
初めてだし、初めての相手はあんたなんかやだし、マリアだけでも逃げて欲しいし、どう暴れたらいいんだろう。
にじり寄られて頬に手を添えられて、諦めた。
馬鹿だったから仕方ない。高い勉強代を払うけど、ファーストキスはこいつにつきあってやって、それで帰ろう。
マリアと一緒に帰ろう。

ぎゅっと目を閉じた瞬間、風が目の前を通り抜けた。

「ん?」

目を開ける前に、鈍い音が耳に届く。

マリアの長い足が目の前ににょっきり伸びていた。

「ま、まり…」
「リズ、帰るぞ」
蹴り倒した大学生に目もくれず、私の腕を掴んで引き起こす。
結構力を入れて引っ張られたはずなのに、腰が抜けててぐにゃりと椅子に倒れ込みかけた私を、両腕でしっかり抱きかかえると、大きな荷物でも抱えるみたいに小脇に抱えてさっさと歩きだした。

かろうじて足は動くから、ちょこまか小走りに引きずられながら歩いて店の外に出て、それから手をつないで走りだした。
マリアの横顔がいつもより険しくて、必死に走りながら涙がにじんできた。