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排水溝に落ちる

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どこまでもどこまでもどこまでも、雨。馬鹿みたいにそう呟きたくなるほど雨は降り続けていた。勢いある濁流のような音がおんぼろアパートを揺るがすように響いている。買い出しの帰りに通りがかった川も溢れかえらんばかりになっていたし、ぼくの服や頭も、傘を差していたにもかかわらず大分濡れている。とにかく大雨だ。
 それなのに何故か矢張がついさっきうちに来た。しかも傘を持たずにやってきて、さっきまで風呂を貸せ風呂を貸せと騒いでいた。いくらうちがおんぼろアパートだとはいえ辛うじて風呂トイレは個別にある。放っておいたら矢張は勝手に風呂に入ってしまった。相変わらず変なやつだ。
 とりあえず矢張に関してはどうしようもないので、彼を無視して机に向かい、本を広げた。それでしばらくは集中できていたのだけれど、窓ガラスを叩く雨音を聞いているうちに眠ってしまったらしい。一瞬目を閉じただけのように思えただけのその間に、雨足は弱まり空はわずかに晴れ間を覗かせていた。机にうつぶせて寝た所為か身体の節々が痛い。それに、広げた本に突っ伏していたのか、頁に油染みのようなあとがついている。
 伸びをしてそのまま身体を後ろに反らせると、背骨がポキポキと鳴った。
「おー、トゲが迫ってくる」
「あ?」
 振り返ると、矢張が僕の万年床に寝転がっているのが見えた。万年床は机の真後ろにある。
「なにやってるんだよ」
「見りゃわかんだろ? 寝てるんだよ。風呂入ったら気持ちよくなっちゃってさー」
 のびのびと人の部屋を謳歌している矢張を、とりあえず布団から取り除くべく立ち上がって、腋の下を抱えて転がした。ひたり、と冷たい肌の感触があって、思わずびくりとする。瞬間手が滑って矢張は元の位置に戻ってしまった。
「んだよォ、人が気持ちよく寝てるってのに」
「寝てないじゃないか、っていうか、」
 よく見たら矢張はトランクス1枚履いただけでぼくの寝床に転がっていて、肌にはまだ水滴が点々と残っていた。
「お前身体拭かないで布団に寝るなよ!」
「黴でも生えんの?」
「その心配がないとも限らないじゃないか」
 今度こそ確実に矢張を退かそうと、もう一度同じことを試みる。冷えた肌に触れると何故かどぎまぎして再び手が滑りそうになった。なんだろう、この感じ。矢張の掌がぼくの腕を捕らえて、触れられているところがまるで溶けていくような、
作品名:排水溝に落ちる 作家名:nabe