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The Summer Photograph

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 イギリスが眺めている前で、パソコンにデジカメをつないで、日本は手慣れた仕草で撮った写真を吸い出している。セーシェルははしゃぎすぎて疲れたらしく、浴衣を着替えるとすぐに眠ってしまった。
 画像となった写真をあらためながら、浴衣を借りたお礼の写真は、すぐに決まった。特によく撮れていたのが、着てすぐに3人で撮ってみた1枚だった。
「私も見せて頂いても、よろしいのですか?」
「変な写真は撮ってないから別にかまわないが」
 思わせぶりに日本が尋ねたてくるのを、イギリスは何気なくうなずいた。
 SDカードに画像を移しながら、なぜ日本が最初にそんなことを訊いたのか、遅ればせながらイギリスが理解したのは、終盤の写真を見ていた時だった。
 《ぽち》が被写体の写真がいくつかあったのは、昼間に日本が撮ってみたものなのだろう。祭りに出かける前のセーシェルやイギリスが写った写真ののちに、背景は暗く変わる。日本にカメラを借りてから、イギリスが撮った分だ。
「おや、これは……」
 マウスを操作する手を止めて、日本は1枚の写真に見入っている。
 モニタに映し出されているのは、セーシェルだった。
 なんの変哲もないスナップだ。浴衣姿のセーシェルがバストアップで、屋台を背景に写っている。構図にもこれといった特徴はない。
 やわらかい弧を描いて、黒い目がこちらを見ている。少女の透き通った瞳が、どこか甘い熱を閉じ込めて、写真を見ている自分たちを見つめている。そんな錯覚を感じる。
「いい写真ですね」
「そ、そうか?」
 セーシェルが見つめているのは、本当は、写真を見る者などではない。
 ファインダーを通して自分を見ている、この写真を撮った男だ。
 すなわち、イギリスを。
 じいっと見つめていると、すべての彼女の感情が、流れ込んでくる気がする。
「セーシェルさん、とてもいい顔をしていますね。世界中でただひとり、イギリスさん、あなたでなければ絶対に撮れない写真ですよ」
「ああもう、やめてくれ!……ちくしょう」
 写真は撮影者の鏡だと言う。恥ずかしくて、居てもたってもいられなくて、イギリスは手のひらで口元を覆って目をそらす。とても注視できない。
 ふふふとそよ風のように笑って、日本はその写真をモニタから消す。SDカードへのデータ移行が終わったらしい。


 休暇が終わって、自分の国に帰ってきてから、イギリスはさっそく写真を自分のパソコンに移した。もちろんプロテクターをかけているフォルダにだ。
 ふとした時に、あの写真が見たくなる。少しだけ見たら、彼女に電話をかけに行くのだ。
 変哲もない、ただのスナップに切り取られたセーシェルが、そこにいる。

 愛おしいたったひとりの少女が、イギリスに笑いかけている。




End.
作品名:The Summer Photograph 作家名:美緒