【DRRR】触れないで欲しいです!【静帝】
》静帝
『触れないで欲しいです!』
最近…、最近の暑さはホントどうかしてるよ…。
学生服がじっとりと背中にへばりつく感覚に気持ち悪さを感じながら、帝人は帰路を急いでいた。
アスファルトは焼け付いていて、調理されている鉄板焼きの気分を心行くまで堪能できた。
少しでも早くこの地獄ような暑さから開放されたい、かと言って早足で歩いて余計な汗はかきたくない。そのぎりぎりのラインで、出来る限り日陰に入りながら池袋の街を横切っていく。
この調子じゃ、どうせ家に帰っても暑いんだろうな。
帝人の家にも冷房機器がついてはいる。しかしそれがしっかりと冷やしてくれるか、と言えば、…かなり能力が低い。隙間から冷気が逃げていっている感じはするし、そもそも出てくる風はぬるいぐらいだ。
帰った途端に、部屋にこもって熱されていた空気が襲い掛かってきて、更に気分が悪くなるのは簡単に想像がつく。
もう5時を指すのにまだ明るい世界は、夜になっても涼しさなんて連れてきてはくれなさそうだ。今あの部屋に帰るのは自殺行為にも思えてきた。
どこか、お店に入ろうかな。
視界の両側に広がる冷房の効いた背の高い建物は、どこも中が天国に見える。
出費を考えると、飲食店は避けたい。冷蔵庫にある食材だってすぐに腐りそうな季節だから、今日は家で食べるべきだと思う。
…100円ショップとかハンズに行ったらいいかな。でも、行ったら何か買っちゃいそうだしな…。
だんだんと暑さで思考もまとまらなくなってきた。
家に帰ってネット上でのバイトの続きもしなくてはいけないのだが、今やそんな気分には全くなれない。
自宅にネット環境があるのにネットカフェに行くような非経済的な真似はしない、堅実な学生は少しでも風を求めるように空を仰いだ。
わずかに涼しそうに見える、公園の噴水が目に入る。
当然ながら、緑が多くて水があってもオアシスに見えるそこも、今は茹だるように暑いのだろう。
歩き去る人々はみんな下を向いていて、目的地へと、重い体を揺らして足早に過ぎていく。
その中に、蜃気楼みたいに揺れる姿が一瞬見えた。
白いシャツと黒いベスト。
あ、と思った瞬間に噴水の中に大きな水しぶきが上がった。何か大きなモノを勢いよくぶち込んだことで見事に高く遠くまで散った水は、夕方になっても暴力的な日差しを受けキラキラと輝く。
「…虹だ」
ぼうっとした頭で呟いて、喉がカラカラになっていることに気付いた。
それとほぼ同時に、目が1人の人間を確認する。
暑いのに、静雄さんて夏でもあの服装なんだなー。
今日は噴水かー、ちょっとでも涼しくなりそうでいいよねー。
「お、帝人くんか?」
かけられた声に振り返ると、静雄さんの上司である、田中さんが帝人の方へと手を振っていた。
何だか恨みはないのに、あのドレッドヘアーを引きちぎりたくなる。暑苦しい。
「こんにちは田中さん。噴水、綺麗ですね」
「ハハハ。お前は大物だな。今日はあんまり暑いんで、静雄の頭も沸いちまったんだろーなー。消火栓にぶち込んだり、水道管にぶち込んだり、噴水にぶち込んだり」
「涼を求めていらっしゃるんですねー」
「まぁ、服もすぐ乾いちまうから気になんねーしな」
その後ろで、もう1度だけ大きな水しぶきが上がった。
キラキラと輝く光の粒が空中に踊って、ゆっくりと落ちていく。真っ青な空に、真っ白な雲、痛いほど強い日差し、水の音。夏らしさを1枚に収めたらこんなもののような気がする。
「あれって、打ち水になりますかね。すごいな静雄さん、エコだなあ」
「…帝人くん、涼しいトコ行こっか。水分とろうな」
帝人の言動を不審に思ったトムは、大手を振って静雄の名前を呼んだ。
怒りのピークから覚めてきた頭に、その声は届いたのだろうか。
しばらくしてから、ゆっくりと近づいてくる姿が見えた。周りの人間と同じように頭を俯かせたまま、気だるそうに近づいてくる姿は、まだ苛立ちが完全に消えてはいなさそうだ。
『触れないで欲しいです!』
最近…、最近の暑さはホントどうかしてるよ…。
学生服がじっとりと背中にへばりつく感覚に気持ち悪さを感じながら、帝人は帰路を急いでいた。
アスファルトは焼け付いていて、調理されている鉄板焼きの気分を心行くまで堪能できた。
少しでも早くこの地獄ような暑さから開放されたい、かと言って早足で歩いて余計な汗はかきたくない。そのぎりぎりのラインで、出来る限り日陰に入りながら池袋の街を横切っていく。
この調子じゃ、どうせ家に帰っても暑いんだろうな。
帝人の家にも冷房機器がついてはいる。しかしそれがしっかりと冷やしてくれるか、と言えば、…かなり能力が低い。隙間から冷気が逃げていっている感じはするし、そもそも出てくる風はぬるいぐらいだ。
帰った途端に、部屋にこもって熱されていた空気が襲い掛かってきて、更に気分が悪くなるのは簡単に想像がつく。
もう5時を指すのにまだ明るい世界は、夜になっても涼しさなんて連れてきてはくれなさそうだ。今あの部屋に帰るのは自殺行為にも思えてきた。
どこか、お店に入ろうかな。
視界の両側に広がる冷房の効いた背の高い建物は、どこも中が天国に見える。
出費を考えると、飲食店は避けたい。冷蔵庫にある食材だってすぐに腐りそうな季節だから、今日は家で食べるべきだと思う。
…100円ショップとかハンズに行ったらいいかな。でも、行ったら何か買っちゃいそうだしな…。
だんだんと暑さで思考もまとまらなくなってきた。
家に帰ってネット上でのバイトの続きもしなくてはいけないのだが、今やそんな気分には全くなれない。
自宅にネット環境があるのにネットカフェに行くような非経済的な真似はしない、堅実な学生は少しでも風を求めるように空を仰いだ。
わずかに涼しそうに見える、公園の噴水が目に入る。
当然ながら、緑が多くて水があってもオアシスに見えるそこも、今は茹だるように暑いのだろう。
歩き去る人々はみんな下を向いていて、目的地へと、重い体を揺らして足早に過ぎていく。
その中に、蜃気楼みたいに揺れる姿が一瞬見えた。
白いシャツと黒いベスト。
あ、と思った瞬間に噴水の中に大きな水しぶきが上がった。何か大きなモノを勢いよくぶち込んだことで見事に高く遠くまで散った水は、夕方になっても暴力的な日差しを受けキラキラと輝く。
「…虹だ」
ぼうっとした頭で呟いて、喉がカラカラになっていることに気付いた。
それとほぼ同時に、目が1人の人間を確認する。
暑いのに、静雄さんて夏でもあの服装なんだなー。
今日は噴水かー、ちょっとでも涼しくなりそうでいいよねー。
「お、帝人くんか?」
かけられた声に振り返ると、静雄さんの上司である、田中さんが帝人の方へと手を振っていた。
何だか恨みはないのに、あのドレッドヘアーを引きちぎりたくなる。暑苦しい。
「こんにちは田中さん。噴水、綺麗ですね」
「ハハハ。お前は大物だな。今日はあんまり暑いんで、静雄の頭も沸いちまったんだろーなー。消火栓にぶち込んだり、水道管にぶち込んだり、噴水にぶち込んだり」
「涼を求めていらっしゃるんですねー」
「まぁ、服もすぐ乾いちまうから気になんねーしな」
その後ろで、もう1度だけ大きな水しぶきが上がった。
キラキラと輝く光の粒が空中に踊って、ゆっくりと落ちていく。真っ青な空に、真っ白な雲、痛いほど強い日差し、水の音。夏らしさを1枚に収めたらこんなもののような気がする。
「あれって、打ち水になりますかね。すごいな静雄さん、エコだなあ」
「…帝人くん、涼しいトコ行こっか。水分とろうな」
帝人の言動を不審に思ったトムは、大手を振って静雄の名前を呼んだ。
怒りのピークから覚めてきた頭に、その声は届いたのだろうか。
しばらくしてから、ゆっくりと近づいてくる姿が見えた。周りの人間と同じように頭を俯かせたまま、気だるそうに近づいてくる姿は、まだ苛立ちが完全に消えてはいなさそうだ。
作品名:【DRRR】触れないで欲しいです!【静帝】 作家名:cou@ついった