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挽歌を届けに

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 カダージュ達の消滅から数週間経ったある日、ツォンは、ルーファウスに休暇を貰いに行った。
 ジェノバの首が消滅し、それの保護を一応の大義として集まっていた『神羅カンパニーの残党』の役割もその必要がなくなり、しかし離散せずに、今もなおこうして顔を突き合わせる場所にいるというのは、彼らに言わせるならば『長年の情と慣れ』ということなのだろう。
 そんな彼らの中で、取り分けツォンが律儀な気質であることは、周知の事実だった。神羅カンパニーの残党という、輪を掛けて彼を言わば縛っていたものが、本当の意味で消滅し、つまりそれらを気に掛ける必要は無くなったというのに、当の彼はそれに気付いていないのか、気付いていて知らない振りをしているのか、ルーファウスに言ったのである、「誠に恐縮ですが、私用の為、4日間の暇を頂きたいのですが」と。その声は、2年前だか3年前だか、とかく昔の仕事の際のもの、例えば「アバランチの動きを掴んだので、阻止の為、6日間の時間を頂きたいのですが」と言うときのものと全く変わっていなかった。
 これには流石のルーファウスも少し面喰らったようで、怪訝ながらも
「そう改まらなくとも、この調子で、ずっと休暇みたいなものだろう」
 と言った。当然の反応である。
 しかしそれに対し、ツォンの返答はこうだった。
「確かにそうですが、・・・そうですね、これも長年の癖ということにして下さい」
 許可を貰う必要がもうないことに気付いたのか、しかし、撤回はしなかった。
 それは、ツォン自身がここ以外での別の生き方を望んでいないことの現れなのかもしれない。生きられない、とでも考えていそうだ、ルーファウスは思った。それは、齢が自分とそう大きくは変わらない彼が、自分が物心付いたとき既に自分の世話役としてあったことに由来しているのだろう。
 しかし、例えそうであったともなくとも、確実に休暇を取ってまで、まず彼にはやるべきことがあるということだ。
 そのこととは、恐らく。
「4日間で構いません。宜しくお願い致します」
「フン、差し詰め、墓参りといったところだろう」
 軽く会釈していたツォンは、目を少し見開き驚いた顔をして、しかしすぐにああ、悟られたと諦めたような表情になった。
「あんなことがあった後だ、不用心に一人旅とは感心しないな。そう思うだろう、お前たち」
 ルーファウスは、ドアの外へ呼び掛けるように「入れ」と言った。するとそれがガチャリと開き、レノ、ルード、イリーナが気まずそうに(3人とも見事に「バレたか」と言わんばかりの顔つきで)入ってきた。立ち聞きをしていたようで、しかしそれを今更叱咤する気もツォンにはなかった様で、ただため息を吐き、そして言う。
「念の為ですが、お聞きしたいことが」
「なんだ」
「どうされるおつもりで」
 ルーファウスはニヤリと笑い、そして言った。
「お前へ日頃の感謝の気持ちを返してやる」


 タークス4人にルーファウスという、元・精鋭部隊にしては少し大所帯だったが、5人はヘリで向かった。
 目的地は忘らるる都だった。改まった緊張感はなく、誰も他に行き先を疑うこともなかったし、何処へ行くのかと尋ねることもなかった。全ては暗黙の了解というものだった。
 少し時間がかかりつつも、到着すると、初めて来たからか、イリーナは感嘆の声を洩らした。尤も、このただ頽廃的な外観だけでは感動も何もないだろうに、と彼女以外の彼らが思ったことは内緒である。
 神殿はあそこだな、とルーファウスが指差す。その方向へツォンは先に一人で歩き出していた。ひとまず散策は後にして、他の3人もそこへ入った。中の景観を見てイリーナは更に歓声を挙げた。これは尤もだ、と他の彼らも思った。海の中を歩いている様な景色、あちこちガタがきているとは言え、滅多にお目にかかれない古代建築。
 その更に奥へ進む。神殿の最奥、そこは、クラウド達曰く、墓場だった。
 その言葉には似つかわしくない広さ、しかし似つかわしい澄んだ、見詰めていたら引き摺り込まれそうな無色の泉。何処からか海水が入り込んでいるのか、潮の匂いがする。
 しかし何もないその場所を横目に、ほんの少し経ってから、レノが言う。
「イリーナ、満足はしたか、と」
「え」
 ルーファウスも言う。
「この奥はもう何もない。それに潮の匂いがきつい、早く出て外を散策しようじゃないか」
「あ、はあ・・・」
 入ったばかりだと言うのに、そんなことはお構い無しでイリーナを急かすルーファウス。それを促すレノとルード。訝りながらも外へ出るイリーナ。
 3人が出て行くのに付いて行く様に、そして飽くまで白々しく、独り言を言うかの様に「ああ、そうだ」とルーファウスは立ち止まって言葉を発した。
「私たちも出ているぞ、ツォン」
 ツォンは振り向かず、足下の水面を見詰めたまま言う。
「お気遣い頂き、ありがとうございます」
「さあ、何のことだ。私はあまり潮の匂いが好きじゃないんだ。早く出たい」
 さっさと背を向けて歩き出す。
 しかしほんの少しだけ立ち止まり、ただ呟く様に、言う。
「お前は甘い。しかしそれ以前に、優し過ぎるな」
 それは、叱咤だったのか、また彼の優しさだったのか。
 死に際の顔はひどく安らかだったと聞いた。まるで後悔も恨みもないと告げるかの様な綺麗な顔だったと。それを聞いて安心したのは事実だ。それなのに、浮かぶのは、幼い頃のエアリスの姿ばかりだった。快い存在ではなかったはずなのに、それでも自分を決して邪険にはしなかった彼女の心中を、とうとう自分は最後まで知ることがなかった。知ることが出来たら、少しは何かが変わっていたのだろうか。それならば自分のこの感情はまさに後悔なのだろう。
 ツォンは声をあげず静かに泣いた。涙はあっさり足下に吸い込まれて消えた。

 *

 外へ出たイリーナ達は、ゆっくりと歩いていた。今まで来たことのあるどの土地とも違う、忘れ去られて時の止まった、この荒廃した地の持つ独特の浮遊感。こうなってしまった理由など、ルーファウスは知っているいくつかの知識を話し始めた。
 お詳しいんですね、イリーナが言う。
「昔、技術開発プラントをここに建設する計画があってな。手付かずの土地だ、歴史を知りたいと思うのも当然だろう」
「まー、でも、こんな接続の悪いところで働くなんて嫌だぞ、と」
「確かに、本社からかなり距離があったでしょうしね。結局その計画はどうなったんですか?」イリーナは尋ねる。
「無論、没だ。理由は『コストパフォーマンスへの懸念』」
 実にシンプルな理由だった。既存の研究施設を運営することにさえ馬鹿にならない費用がかかっているのに、当時まだ大企業とまでは呼ばれていなかった神羅カンパニーにとって、成功の可能性が高くなく、しかも前人未踏未開であるこの地での行き先不透明な事業に投資することは、博打に近かった。
 確実な利益、それだけ。その慎重さが、結果、神羅のかつての全盛期を招いたと言って相違ないだろう。それらがのちの歪みを生んだという事実は、また別の話としてだ。
「当然の結論だな、と」
 レノがあっさりと答える。
「でも・・・でも」
 イリーナが、どこか躊躇いがちに口を開く。
作品名:挽歌を届けに 作家名:若井