挽歌を届けに
「もし、プラントが建設されていたら、神殿も何もかもなかったら」
そうしたら、エアリスは、ツォンさんは。
そこから先を、イリーナは語らない。その無言の間に、ルーファウスが言った。
「『もしこうだったら』と過去形で物を語ることは、結果論に過ぎない。未来の人間の特権だ。ただの懐古の類いだよ」
そこから先に、誰も言葉を発そうとしなかった。
ツォンが神殿から出てくると、誰も振り返ることなく、ヘリに乗り込んだ。きっともう来ることもない、自分たちも、誰も、この地を訪れることはない。クラウドたちもそうだ。
『人は死んだらライフストリームになる』、誰しもが皆、一度は誰かから聞かされた言説。
「私にオカルトを信じる趣味はないが、今更その説を否定する必要もまたないな」
ルーファウスは言う。
ここが墓場なのだとしても、人が死んだらライフストリームになるならば、少なくとももう、彼女はここにはいない。死者は地には留まらない、星の流れになって常に巡る。それをよく知っているはずのクラウドが、それでもこの地を墓場と称したというのは、それももう、誰も言及することもないのだろう。
誰も訪れず慈しまず、そうして他の何かがこの地に踏み込むことも結局はないまま、今日この状態に至る。まさに古代に拓かれた未開の地であり、そしてこれからも新たに拓かれることはないだろう。エッジの近くに佇むミッドガルすらそうである様に。
形あるものほど忘れ去られていく。だから彼らは、彼女のことを永劫忘れることはないだろう。
さて、時を刻まぬ地から飛び去る彼らがこれからどうして行くのかは、神ではなく、星のみぞ知る、というところ。