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いとしご01

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美しいものは好きだ。しかし、強さが伴わなければ何の意味も見出せない。プロイセンは泥のついた長靴で、愛馬の腹を強く蹴った。夜の森。静謐な眠りと、密かに行われる狩りを、プロイセンは泥の臭いでかき混ぜた。それは、煩雑な生の臭い、征服し、支配し、食らい尽くそうとする、ぎらぎらと火照った欲の臭いだ。森が、持っていながら夜の間だけは隠そうとする生臭さを、プロイセンは捨てられない。美しくはないが、プロイセンは其処で生まれ、泥を啜って此処まで生きてきたのだから。薄汚れた、そう、敵の言葉を借りるならば、下品な野心を隠さない己の臭いを、プロイセンはいたく気に入っている。
「バイルシュミット卿!」
「見つかったか」
「ここから東の方角で」
 よし。低く呟いて、プロイセンは愛馬を走らせた。夜の森は魔が潜んでいる。知と技術を持ったプロイセンが恐れるものではない。だが、何の力も持たない命にとっては。プロイセンは初めて経験する痛みを体中で感じている。特に、喉の奥が震えるほど熱い。それまでプロイセンを恐怖させるのは己の死、それだけだったのだ。この気持ちが焦燥だと、プロイセンは気付かない。夜風を切り裂きながら、酷い舌打ちをする。熱がプロイセンを責め立て、怒りが燃え上がった。行き場の定まらない炎。しかし、原因は明らかだった。
「ルートヴィッヒ!」
 何人かの、プロイセン直属の部下に取り囲まれた少年が顔をあげた。泡を喰った顔でプロイセンを見上げている。プロイセンは愛馬から降りて少年に近付いた。
「兄さん」
 鼻が赤くなっている。胸の前で擦り合わせられた両手は震え、冷気を纏った全身が水気を含んで濡れていた。森の中をさ迷ったのだろう、葉で切れたと見える切り傷が覗いている。草にも負ける白肌。なんと弱弱しいものに、己は労力を割いているのだろう!プロイセンの歪んだ表情に、少年はたじろいだ。
「兄さん、その、ごめんなさい」
「謝るな!」
「えっ」
「無様だ、二度とするな」
 かわいたおと。
作品名:いとしご01 作家名:亜愛あきら