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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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「また会える?」
「きっと」
「また遊んでくれる? 僕のこと忘れない?」
「うん。駒で遊んだことも、鬼ごっこしたことも、ぜったいに」
「ぜったいだよ」
「うん。だいすきだよ」
「僕もだいすき。……あのね、さようなら」
「うん、さようなら。またね」

 あのね。さようなら、またね。
 待っててね。



 * * *



 お江戸の大通りに、花の香りがふわり。
 着物の隙間を見つけて入り込んでくる厄介な風も、すっかり心地よくなった。
 朝早くから天下の城下町を跳ねるように歩く人々が目立つ。布団を質に入れ、懐まであたたかくなった人たちが江戸に溢れかえっているのだ。
 開かぬ店も多い中、もうもうと湯気のこもった店が一つ。
 甘くて貴重な匂いだ。店先にはころりころころ、今にも転がる金平糖。透きとおったまん丸の飴玉。にょっきり伸びた棒の飴。なるほどそこは飴屋である。
 のれんをのけて、ちょいと覗いてみれば、調理場で働き者の奉公人がせっせと釜をかき回している。
 ここは名店「飴の蜂屋」。上様も召し上がる、江戸屈指の飴の大店だ。美しい千代紙で飾られた店内は、持ち主の品の良さを表している。中を通り、裏口の方へ行ってみよう。
 飴の蜂屋の後ろは神社になっている。いつできたか知れない小さなものであるが、ご神木はたいそう大きく、境内もきれいに保たれている。願掛けをするとよく叶うと評判で、いつも恩を受けた誰かしらが掃除していくらしい。
 賽銭箱の前で縄を揺らす、ぼさぼさ髪の男が一人。蜂屋の手代、竹谷八左ヱ門だ。今日も勢い良く手を叩いて、日課のお参りをしている。
「どうか飴屋が繁盛して、旦那が健やかでありますように!」
 八左ヱ門はしばらく首をかしげて付け足した。
「ついでに居候が早くいなくなるように」
 八左ヱ門は蜂屋に奉公してから欠かさずこの神社に来ていた。とはいえ、朝やってきてこうやって神さまに頼むだけだ。
 この神社本来のお参りはちょいと面倒。
 札を買い、そこに願いを書く。三日後に願いごとの子細を唱えながら、祈るのだ。
 そんなこと毎回していられない。毎日来ているのだから、そこまでの手間はかけないまでも、願いは叶えていただきたいものだ。気が短いのは江戸に住む者の性である。
 さあ、めしめし。無事祈り終えた八左ヱ門は元気に朝餉をかっ込みに行くことにした。