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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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 明るい気分で階段までやってくると、次の参拝客とすれ違った。初老の男。良い仕立ての着物、しかし派手だ。八左ヱ門がちょうど境内を出るところで、鈴がガラガラ鳴った。
「なにとぞ、なにとぞ三両をお探し下さい!」
 八左ヱ門が飛び跳ねるほどの大声だった。
「なんだあのじいさん……」
 様子を見に戻りたいくらいだが、すでに腹の方が音を上げている。仕方ない。ぱりぱりした古漬けを食べるべく、小走りになった。

 朝餉はもちろん、軽い昼餉さえ終わったころ。
 八左ヱ門は離れの一室で、深々と頭を下げていた。
「お願いします」
「うん」
 差し出した小壷を受け取った旦那が目を輝かせる。中にあるのはゆらり光る飴。美しい紅色をしている。旦那は思わずといった様子で飴を掬いとり、さっと口に運んだ。ほっと和らいだ表情。
「八左ヱ門があっていたね。桜の塩漬けを入れたのは正解」
「そうでしょう、そうでしょう。俺の自信作です」
 飴とは言え我が子同然。うまいと誉められれば頬も染まる。
 水飴の名を、「桜色」という。桜満開を目前にして仕上げた一品だ。季節ものゆえ時期を選ぶ。早咲きの桜を見つけてくることから始まり、それだけでも十二分に手間がかかった。旦那に気に入ってもらえないはずがない。
「ありがとう。八左ヱ門はいつもいい飴を考えてくれるね」
「いいえ、旦那のものには負けます」
 そう、採用になる飴は旦那が考えたものが大半だ。八左ヱ門はほんの一部分にすぎない。
 「飴の蜂屋」は、先代の主が一代で起こしたものである。先代は、銭の計算は不得手であったが、高級品である飴を庶民にも親しめるよう努力をした、工夫の男である。
 声を綺麗にする飴だとか猫舌を治す飴だとか、万人受けはしないものの一部が殺到する、とかく不可思議な飴を考案し蜂屋を大いに賑わせたのだった。本通りの裏に店を構える事ができたのも、先代の商才のなせる業だ。
 しかし天賦の才がある者に運命はつらく、先代は若くして儚くなってしまった。
 女房が立て直そうにも、産後の肥立ちが悪く早死にしている。親戚もいない。若い一人息子が店を継がざるを得なかった。
 息子の名を雷蔵という。
 さて、使えぬ八男として爪弾きにされていた竹谷八左ヱ門が「蜂屋」に奉公できたのは、一重に先代と雷蔵のおかげだ。