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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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「旦那が……」
 蝋燭を受けとりながら、雷蔵の手もとを見下ろす。札に書かれた様々な願いの端が見えた。達筆なものから、子供が書いたとおぼしきものまで、さまざまだった。かなりの量だ。
「これを、全部叶えて?」
「そうだよ。猫を見つけてだの、珍しい花を探してだの、ささやかなものばかりだけど。なにせ、全部は叶えられない。願いもさまざまだからね。「私とあの人 の縁結び」とかはできないし……。それは心の問題でしょう? だから、できないことは除いて、私たちが放り込まれた札から選ぶ。で、三日後、私の部屋で待 つ」
「でも、願いを聞かなければくわしいことがわからないんじゃ……?」
「うん。実は賽銭箱近くの声だけはあそこでも聞けてね。壁沿いの竹筒が見えるかい? あれが声を届けてくれるんだよ」
 竹筒がここからぐっと向うまで伸びている。いったい雷蔵の部屋のどこと繋がっているのだろう?
「だからおまえの願い事もね、札を集めにきたとき真下で、そしてたまに部屋で聞いてしまっていたんだ。聞くつもりはなくて……いやでもこれは言い訳だね。ごめん」
 雷蔵がしゅんと小さくなる。赤くなりながらも八左ヱ門は慌てた。
「旦那、そういうことなら、しかたないことですしさ……そりゃ恥ずかしいですけれども」
「ううん。申し訳ないよ。大丈夫、おまえの秘密は墓まで持って行く覚悟だから……」
「さっきあやうく言いかけてましたけれども」
「え、そうかな? むぅ、ごめん!」
 渇いた笑いしか返せない。まったく、この主はどこか抜けている。これでどこか憎めないのだから困る。
 いや、しかし。八左ヱ門は考える。そんな俺のことよりも……
 そもそも、この「よろず叶え屋」ともいうべきものは、三郎のお父上が亡くなってからひとまず断絶したにせよ、後に先代が受け継いだのだろうか? そして亡き後は雷蔵が?
 八左ヱ門は、先代が急死してから死にものぐるいで勉強をしてきた雷蔵を、すぐ横で見てきた。まだ店のことを知らぬ雷蔵にとっては、さぞかしきつい仕事だったろう。いや、今でもつらいはずだ。それが裏でこんなことをしていたとなると……
「旦那は、こんなことを……三郎が来るまで、ずっと一人で?」
 願いを叶えるなんて、楽な仕事ではない。だとしたら、雷蔵はとんだ重労働を強いていたことになる。八左ヱ門がもっと早くに気づかなければいけなかったのだろう。