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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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「あ、私は、」
「俺が教えるまで、雷蔵はなにも知らなかったよ。きっと先代は時を見計らっていたんだろうね。雷蔵に継がせていいものかも、考えていたんだと思う。思う通り、たいへんな仕事だから」
 岩肌に寄りかかった三郎が、雷蔵の代わりに答えた。腕を組んで、まるで雷蔵の影のように、そばにいる。
「……『今まで穢いことも卑しいこともやってきた。それでも俺はわがままだね、極楽に行きたいんだ。善行つんで、いっちょ仏さんの頭撫でられるくらいにならねえとな』……親父はそんなこと言ってた」
 三郎が記憶を辿るように話す。
「罰当たりめ。でも素直な奴だった、って先代が言ってた。俺もそう思うよ。嘘は吐かない親父だった。どんなに難しいことでも、小さい俺に一から十まで教え てくれてさ。……普通さあ、遁法とか子供に教えたってわからないっていうのにな。でも感謝している。親父はあんなにあっけなく死んじまったけど、たくさん のものを遺してくれたから」
 恥ずかしそうに、けれど胸を張って笑う三郎。八左ヱ門は密かにその表情に見とれた。特徴のない顔だからこそ、表情の一つひとつが、職人が丹誠こめて作ったような完成度がある。しかし相手が三郎だと思い出すと、自分の考えが寒いやらなにやらで頭が痛くなってきた。
 三郎の父はこの神社を介してある依頼を受け失敗し、そこで命を落したという。それが不幸の始まりだった。
「三郎のお父上は変装の達人だったんだ。その血を濃く受け継いで、三郎も鮮やかなものだよ。三郎のお父上は、商いの大きくなった蜂屋に影響がないよう、死 に際に、変装させた三郎をどこか離れた場所に奉公に出すよう頼んだ。ううん、でもねきっと、そうした一番の理由は、幼少のころからお父上の手伝いをしてい た三郎の身が危なかったから。三郎を守るためには、自分たちの痕跡がある場所を徹底して隠す必要があったんだ。先代もたいそう悩んだ末、突然の奉公も歓迎 した、茶屋に三郎を預けることにした。……もっといいところは他にあったかもしれないのに、って後悔してたようだよ」
 父親の死。そして知識もなく突然投げ出された別の世界。その心細さはいかほどだろう。しかしそれでも三郎は首を振る。