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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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 先代がひょんな事で八左ヱ門の活発さと大きな声を気に入り、奉公ついでに雷蔵の遊び相手に選んだのだ。八左ヱ門の両親は喜んで息子を送り出した。
 所詮、奉公人。こんな大店に行って、意地の悪い息子に苛められるのではないか。
 はじめこそ不安ばかりが勝った八左ヱ門だったが、「蜂屋」の一人息子の人となりを知るにつれ、それも薄らいでいった。
 雷蔵は、恵まれた育ちが良い方向にあらわれていた。
 重い迷い癖はあれ温厚な質で、人を疑う事を知らない。使用人である八左ヱ門とも対等でいてくれた。
 そんな八左ヱ門も、雷蔵から一声かかれば雑用から解放される優遇にあぐらをかかず真面目に仕事を覚えていったので、持ち前の明るさも手伝いすぐに馴染んでしまった。
 先代が急逝したとき、雷蔵が頼ったのは八左ヱ門だった。
 若い跡継ぎに世間の目は冷たい。一時期、奉公人も暇をとる者が相次いだ。しかし番頭と八左ヱ門だけは絶対に雷蔵を見捨てなかった。繰り上がり、八左ヱ門は異例の早さで手代に昇進。まだ勉強が足りない旦那を助け、傾きかけた飴屋をなんとか支えた。
 雷蔵も、決断が遅いだけで天才的な発想は先代譲り。鳥を象った硬めの飴にべっこう飴をかけたものは、味良し見た目良し、と評判になり、若い娘の間で大流行した。店は徐々に活気を取り戻していった。
「といっても私のはあまり現実的なものじゃないからねえ」
「何をおっしゃいますか、そういうのが大事なんですよ。月並みな案なんかいりませんからね」
「おや、厳しい。なら私も気を引き締めないとね」
「……でも雷蔵、これちょっとしょっぱい」
 ほがらかな雰囲気の中、八左ヱ門はすっかりもう一人の存在を忘れていた。居候の文句が八左ヱ門の癇に障る。
「この甘さを引き立てる塩辛さがうまいんだよ、わかんないのかい」
 雷蔵の膝の上に陣取った居候が「蜂屋」住み着いたのは、ごくごく最近の事だ。この男は本来この部屋にいてはならない。主への不敬をとがめたいところだ が、この男が居候である限り、客人として扱わなければならない。八左ヱ門は奥歯の方で器用に舌打ちをした。毎朝、この男と同じ飯びつを使う事さえ厭わし い。
「俺、甘いのが好きなんだよね」
 何よりも、鉢屋三郎というこの男。八左ヱ門の主、雷蔵と同じ顔をしているのである。
「ほらほら、三郎。一口で評価しなさんな。もうちょっとお食べ。あーん」