旬
「あれ……懐かしい! これ初音ミクだよ!!」
「何それ?」
「お前知らないの? すげぇ前に流行ったんだよ。まだ持ってる奴なんかいたんだなー懐かしー」
すげぇ前に流行った?
懐かしい?
右手のビニルの感触。妙に硬い頭の柱。
「でももう動かないみたいだよ。捨てられたんじゃね?」
捨てられた?
左手の指先にアスファルト。膝を這う蟻。
「ああ。でも路上に捨てるなんてヒドいやつだな。最後まで面倒くらい見ろよ」
面倒。面倒って何?
投げ出された両足に感じる夜の空気。
後ろに落ちた首。瞼に感じる月の気配。
私はずっと前から、マスターの面倒だったの?
ともだち。からおけ。のみ、かい。
「お、おい。こいつまだバッテリー残ってるっぽいぞ!」
「君、マスターの名前を言いなさい!」