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パロ詰め合わせ1

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 こんなにちいさな村だっただろうか。ドラゴンに破壊されてぼろぼろになった村を見つめ、なんて狭い世界だったのだろうとアーサーはひどく虚しい気持ちで思った。
 村の入り口で呆然としていると、ひとりの女性がアーサーたちに近づいてきた。見覚えがあるその女性は、宿屋を経営している人だ。村に伝わる伝承を崇拝していて、アーサーへの風当たりも特別強い人だった。
 なにか言われるのだろうか。過去の記憶を思い出して身構えたアーサーの眼の前に立ちはだかったその女性は、厳しい表情でジッとこちらを見つめてくる。そして数秒後、見たこともないような笑みを浮かべて食いつくようにしゃべりだした。
 ああ、アーサー。帰って来たのかい。おまえがこの村にいたときは辛く当って悪かったね。
 彼女はまるで断罪でもしているかのような話し方で、必死にそんなことを言ってくる。
 意味がわからず呆然としていると、ほかの村人たちも集まってきた。だれもかれもアーサーがこの村に住んでいたときには汚い言葉を投げつけ、蔑むような視線を向けてきた人物たちばかりだった。
 しかしどういうわけか、さんざんアーサーのことを虫けら扱いしていた人々がアーサーに群がり、お腹はすいていないかとか、村にまた住むのなら家を用意できるよだとか、そんなことを口々に言い募った。
 村人の変わりようにアーサーは嬉しくなる前に恐怖を感じる。いったいなんだ。夢か幻でも見ているのだろうか。
 しかし、ジッと村人たちを見ていると彼らがちっとも楽しそうに会話していないことに気がついた。みんな鬼気迫る顔をして、鬼のような形相でアーサーに取り入ろうとしているように感じる。
 そしてふと気付いた。ここに来るきっかけになった、菊の話だ。
 彼はドラゴンに襲われて壊滅したこの村で「魔術師がいれば未然に防げた」と告げたと言っていた。たしかに魔術師がいれば、ドラゴンはこの村を襲えなかっただろう。魔術師は防護壁を魔術で作ることができる。それは魔物から姿を隠すための魔術で、この村を覆うように術を使えば魔物からこの村の姿を隠すことができるのだ。その代わり、そんなにも大きな防護壁は離れた場所からは作れない。この村に魔術師が住み、定期的に術をかけ続けなくてはならないのだ。
 しかし、この村は豊かではない。魔術師を雇う金などないのだろう。そんなときにアーサーが帰ってきた。魔術師であるアーサーをこの村に引き留めれたら、彼らは魔術師を雇う必要もなくなる。
 たったそれだけのことだ。たったそれだけの理由で、彼らはてのひらを返したのだ。
 バカバカしい。なんてことだ。この村人たちに生まれたときから迫害されて、暗くてさみしい幼少期を送ってきた。理由はただアーサーが碧色の瞳をした、魔術師だったせいでだ。
 なのにこんなにも簡単に彼らの考えは変わるのか。自分の幼少期はなんだったんだ。悲しい子ども時代は、友達すらいなかった日々は、家族にすら愛されなかった人生は、なんだったというのだ。
 悔しかった。涙が出て止まらない。
 自分は『特別』なんかじゃなかったのだ。ただの、都合の良い嫌われ者だっただけだ。
 全身からちからが抜けて、立っていられない。ずっと自分を支え続けたものが崩れてしまったような気分だった。
 だれか、と助けを求めたとき、ふいに二の腕のあたりを掴まれる。アルフレッドだ。
 彼は厳しい表情で村人たちを一瞥したあと、アーサーを引きずるようにしてその輪から連れ出した。そしてどんどん村から離れていく。背後から必死にアーサーを引きとめようとする声が聞こえるが、アルフレッドは一度も足を止めなかった。
 そしてあの分かれ道まで戻ってきた。アーサーの涙はそれでも止まらない。足を止めたアルフレッドが腕を離してこちらを振り返り、泣いているアーサーを見て眉をさげた。
 なんの関係もないアルフレッドの前でこんな醜態をさらしたのが申し訳なかった。こうしてすこし気を使わせているのも、みじめな気持ちに拍車をかける。
 アルフレッドは言葉を探すように「あー」とか「うー」とか意味のない言葉をつぶやき、なにを思ったのかアーサーの両手を自分の両手でぎゅっと包み込む。びっくりしてアルフレッドを真正面から見ると、彼はやけに真剣な顔をしてアーサーを見下ろしていた。
「ねえ、泣かないでよ」
 懇願するようなその声に、アーサーはふるふると首を振って言った。
「俺、自分は『特別』だって思ってた。特別だから、村で嫌われてるんだと思ってた。だから虚しくても悲しくて、ずっと頑張れてた」
 でも、とアーサーは涙交じりに続ける。
「全然特別なんかじゃなかった。碧色の瞳も、特別なんかじゃないんだ」
 痛いほどに感じたことだったが、くちにするとさらに鋭く胸に刺さった。またぶわりとあふれた涙を流れるままにしておく。
「ねえ、きみは俺のことも特別だって言ってたじゃないか。それはいまも有効かい?」
 すると突然、アルフレッドがそんなことを言いだす。意味がわからずきょとんとしたが、とりあえずアーサーはうなずいておいた。
 するとアルフレッドはパッと表情を輝かせて、握り締めたままだったアーサーの両手をぎゅっとつかむ。
「ならさ、きみ、俺の恋人になってよ!」
「は、はあ?」
 これには涙も止まった。冗談かとも思ったが、アルフレッドは耳まで真っ赤にして必死な顔をしているのでそうでもないらしい。
「俺の恋人だよ! 特別な俺の『特別』になるんだっ!」
「と、くべつ?」
「そうだよ。しかも、俺の『特別』だ。すっごい『特別』だろう?」
 アルフレッドの恋人。そして彼の『特別』な存在になる。
 それは、いままでのアーサーが感じていた『特別』とは全然違って感じた。さみしさや哀しさ、冷たさもない、ほかほかと温かく感じる。こんなこと初めてだ。
 アーサーの表情でなにか感じ取ったのか、アルフレッドは瞳を輝かせて言った。
「どうだい。今度の『特別』は、きみには何色に見える?」
 何色だろう。ふわふわしていて、暖かくて、優しい色をしているように思う。
 答えられずにいると、アルフレッドがぱちりとウインクして子どもみたいに笑った。
「きっと、俺とおなじ色に見えるはずだよ」

作品名:パロ詰め合わせ1 作家名:ことは