パロ詰め合わせ１
ぽつりとつぶやいて、アルフレッドは踵を返した。そしてたったいま入って来たばかりの扉から外に出る。そしてさっき魚を買った商店とはべつの、行商ばあさんのところへ行った。
アーサーにマタタビは渡せない。だから、マタタビの代わりになるなにかをプレゼントしてあげようと思ったのだ。
「おばあさん！ なにかきれいな花の咲く種ってないかい？」
「花の種かい？」
「うん。変わった花がいいな。でもきれいなのがいいんだぞ！」
「……ああ、じゃあ、これなんかどうかねえ」
行商のおばあさんは商品の入っているかばんではなく、自分の上着のポケットから麻の布包みを取り出した。そしてそれをそっと開くと、中には黒くてちいさな粒が数個転がっている。
「それは……？」
「ここから遠く離れた国の花らしくてねえ。いただいたのはいいんだけど、自宅に帰るのはまだ先だしどうしようかと思ってたところなんだわあ。よかったらこれ持っていくかい」
「え、いいのかい？」
「もちろんさ。早く植えてやらないと花も可哀そうだからねえ」
そう言って麻の布包みごとアルフレッドの手に納めてくれる。
「それで、いくらくらい払えば、」
「ええんだよ。いつもいろいろ買ってくれるから、それはあげるさ」
「ほんとかいっ？ ありがとう！」
麻の袋をぎゅっと握りしめて、すこしでもお礼になればと薬草とアオキノコと生肉もいくつか購入した。
自宅に帰ると寝室にしている部屋にまでおいしそうなにおいが漂ってきていた。薬草とアオキノコは収納ボックスの中に入れて、生肉と麻の袋を持って奥のキッチンへ向かう。
テーブルの上には三人分の食事が用意されている。新米のハンターでるアルフレッドは金銭面でそれほど裕福ではない。装備や武器を揃えればそれなりの金額が必要になるので、クエストの報酬で一時的には手元に入ったお金もすぐになくなってしまう。
ハンターとして生計を立てているだけに、装備や武器はどうしても優先されてしまう。次がアイテム類だ。狩りの途中で集めるのが面倒で商店で買ってしまうので、これもそこそこの金額がかかる。
最終的に残った金が生活費となるので、食材はいつも質素なモノとなってしまうのだ。けれど料理長であるフランシスがそのスキルを大いにふるってくれるので、そんなきつきつの状態でもいつもすばらしい食事を用意してくれるのだ。
それにしても、新米にしてはかなりスキルの高いアイルーを雇うことができたものだと思う。
オトモアイルーであるアーサーは普段ぽわぽわしているのに、いざモンスターを前にすると鬼神のごとき強さになるし、フランシスもひとりで三人分の料理スキルを持っているのかと思うほどに料理がうまい。
「あ、アルフレッド！ どこに行ってたんだにゃ！」
カウンター越しにフランシスと話をしていたのか背中を向けていたアーサーがこちらを振り返ってアルフレッドを見つけ、ぴゃっと耳としっぽを立てた。そして頬をほんのりと赤く染め、ぱたぱたとこちらに近づいてくる。
こちらを一生懸命みあげてくる緑の瞳を見つめていられなくて、慌てて視線をそらす。けれど無視するわけにもいかないと視線をもどし、ぴんと立った三角の耳のあいだにぽんとてのひらを置いて柔らかい髪を撫でた。
「フランシスが待ってるぞ。おなかすいちゃったよ、早くご飯にしよう」
アーサーの表情を確認する勇気はなくて、パッと手を離すとすぐにフランシスのいるカウンターへと向かう。やたらと頬と耳が熱い気がするのはきっと気のせいだろう。フランシスがこっちをによによした顔で見ているのもきっと気のせいだ。