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パロ詰め合わせ1

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 そもそもここに忍び込んだのだって、決闘しろと言ったのだって、全部アーサーの為なのだ。アーサー自身はそのことに気付いていないようだが。
 アルフレッドはアーサーの自尊心の高さを知っている。だから人間などに使役されるなんて思いもしていなかったのだろう。ならばアーサーは捕えられて、無理に式神にされたと思うのが普通だ。だからここに来て菊に挑み、勝ったらアーサーの自由を願うつもりだったのかもしれない。
 しかしそんなことをこの意地っ張りのアルフレッドがくちにするはずもないので、すべて菊の想像でしかない。しかしきっとこれが正解だろうという確信がある。
 ふたりとも素直ではないのがもどかしいが、この九尾と狛犬はきちんと相手を尊重し、そして大切に思っている。この軸さえしっかりしているならば、いつか誤解も解けるだろう。
 なので菊は手を貸してやることはせず、きゃんきゃんとアルフレッドを注意しているアーサーと迷惑そうに眉をしかめているアルフレッドを微笑ましく眺めた。
 どうやら話は人の屋敷での振舞いから服装へと変わっているらしい。アーサーは菊があげた狩衣をきっちりと着ているが、アルフレッドは冠や裾を着る前の直衣をさらに着崩した格好をしている。普通では絶対に見かけない服装だ。だらしなく映るのもしかたがないだろう。
 菊としては別に内裏に入るわけでもなし、それに人に姿を見られるわけでもない物の怪のアルフレッドがそこまで服装に気をかける必要もないのではないかと思う。けれどきっちりしているアーサーはその服装がいたくお気に召さないらしく、はだけた胸元を一生懸命直そうと怒り狂っている。
 それをなんとか押し戻しつつ、アルフレッドが「あっ」と短い声をあげて菊の方を見た。
「五条大路の方、今日は見に行ったかい?」
「いえ、今日は見に行っていませんが……。どうかしましたか?」
「今日の夕方、たまたま五条大路の傍を通ったんだ。そこにほら、誰も住んでない屋敷があるだろう?」
「ああ、かなりぼろぼろになってるところだよな?」
 アーサーも見覚えがあったのか、首をかしげながらもアルフレッドの話に加わってくる。
「そうなんだけど、しばらくはあそこは注意して見ておいた方がいいかもね」
 もちゅもちゅとくちいっぱいに餅菓子をほおばりながら、アルフレッドはなんでもないことのように言う。その態度に、菊とアーサーは思わず顔を見合わせてしまった。
 アルフレッドは物の怪の中でも比較的若い分類になるらしい。しかしどういうわけか、若いとは思えないほどにちからが強い。アーサー自身も、純粋な能力だけならばアルフレッドに負けるかもしれないと言っていたほどだ。
 しかし、と菊はアルフレッドを見る。
 能力の高いアルフレッドは、ある意味アーサー以上に自尊心が高い。そしてアーサーの件があってからしばらくのあいだ、アルフレッドは菊を敵視していた。
 なので当然のことながら、アルフレッドは菊に使役されている式神ではない。自由を愛していると豪語する彼は、いまでも誰にも使役されていない物の怪だ。
 だからいままで、菊に助言することなどなかった。それが今日になってそんなことを言うものだから驚いたのだ。
「あ、えっと、じゃ、じゃあ菊、俺、いまから見てこようか?」
「ああ、はい。そうですね。お願いできますか?」
「わかった。行ってくる」
 素直にうなずいて、アーサーはさっと立ちあがると寝殿を出て行った。そしてふっと気配も消える。普通の人である菊には絶対にまねできない移動手段を持つアーサーなので、きっとすぐに帰ってくるだろう。
 ふう、と溜息をつき、ちろりとアルフレッドを見る。彼はゆらゆらと揺れる燈台の炎をぼんやりと眺めている。その色のない横顔に思わず笑ってしまうと、ぶすりと唇を尖らせてアルフレッドがこちらを見た。
「……なんだい」
「いえ、アルフレッドさんがこのような助言をしてくれるとは珍しいと思いまして」
「べつに、そんなことないだろう」
 そう言ってアルフレッドはプイと顔をそむけてしまう。しかし尻尾がゆらゆらと左右に揺れているので、きっと恥ずかしいだけなのだろう。
 なんとも素直ではないと笑うと、アルフレッドが眉を吊り上げてこちらを勢いよく振りかえった。
「だいたい、きみが人間だから悪いんだぞっ!」
「はあ」
「なにかあったとき、戦うのはアーサーだって言うじゃないか! あんなどんくさい人がまともに戦えるとは思えないからね! だから、ほんとうにしかたがないから、俺が事前に悪い奴がいそうなところを教えてあげているだけだぞ!」
「では、アルフレッドさんも私の式神になっていただくのはどうでしょう? そうすればおふたりで戦えるのですが……」
「いやだぞ! 俺は自由を愛してるんだからね! 使役されるなんてまっぴらなんだぞ!」
 ちからいっぱいそう叫んで、アルフレッドは立ちあがる。そして迷いない足取りで歩きだした。
 どちらに行かれるのですか、という野暮な言葉は呑み込んで静かにそのたくましい背中を見送る。きっとひとりで屋敷に向かったアーサーを追うのだろう。
 誰もいなくなった寝殿はとても静かだ。ふと肩のちからを抜き、菊はさっきまで読んでいた書簡へと視線をもどす。
 燈台の炎がじりじりと鳴いて、淡い光が点滅する。油が切れそうなのだろうかとそちらへと視線を向けて、ぎくりと身体が強張った。
 誰もいないと思っていた室内。燈台の傍に、ひとりの男が座りこんでいたからだ。
「だっ……!」
「菊ちゃん菊ちゃん、俺だよ、おーれ!」
「そ、その声はっ……」
 背筋を走っていた緊張感が頭のてっぺんから抜けていく気がする。どうじに、じりじりと音を鳴らしていた炎の動きが落ち着き、室内に明るさが戻ってきた。
 そうして現れた男は、つややかな金色の髪を顎のあたりまで伸ばし、夕暮れ間近の青空の色を瞳に宿しためったにお目にはかかれなさそうな美丈夫だ。顎先にはひげも生やしているというのにその端麗な容姿にはなんの欠落も加えず、白い肌や男性としてたくましくしなやかな体つきは見る者の心を奪う。
 物の怪は容姿端麗の者が多い。菊の周りにいる者が特別であることもあるが、ちからの強い者ほど人に似た姿をしているし、髪や瞳の色、肌の色などもまったく違う。その中でもいままで見てきた中で一番容姿が整っているのがこの男の妖がだんとつだ。
「お久しぶりです。ずっとどこかに出かけているとアーサーさんがおっしゃっていたので、驚きました」
「そうそう。それで、さっき帰ってきたとこなんだ」
「はあ。……それはお疲れ様でした。それで、どちらに?」
「うん。ちょっと外にね」
 にっこりと笑う美しい男。けれど見慣れている菊はどうと思うこともなく、首をかしげる。
「外とは……、都の外ですか?」
「んーん、海の向こうね」
 はあ、と気の抜けた返事をして菊は首をかしげる。たまにこの男の言うことはよくわからない。
 そもそも、この男は謎が多いのだ。名はフランシスというらしい。これも本人からではなく、アーサーから聞いたことだ。
作品名:パロ詰め合わせ1 作家名:ことは