パロ詰め合わせ1
アーサーが九尾の里を追われたとき、彼に拾われて世話になったと聞いた。なのでアーサーよりもさらに年上で、どうやら生まれはこの国ではないようだ。
あとのことは菊もよく知らない。アーサーもそれ以上のことはくちにしなかった。けれどちからはアーサーやアルフレッドほど強くないようだ。その代わり、気配を消すことや人間に化けて紛れることに長けている。
「それで、海の向こうにはなにをしに?」
「んー、なにをしに行ったってわけじゃないんだけどねえ」
そう言うと、フランシスはどこで手に入れたのか豪華な装飾が施された扇を広げて口元を隠す。
「一応、可愛い菊ちゃんに忠告を」
「はあ、なんですか?」
「ちょっとタチの悪い妖がこっちに移り住もうとしてるみたい。この場所に来るのかはわからないけど、ここは良くも悪くも憑きやすい土地だから忠告した方がいいかなと思って」
フランシスはぱちりと片目をつぶり、そして立ち上がる。どこで手に入れたのか、白に金の柄が入った直衣の袂からはふわりと柔らかい香りが匂ってくる。
「どちらに行かれるのですか。もうじきアーサーさんがもどってくると思いますが」
「ああ、うん。いいや。行くとき言付けなく出かけたから、あいつ怒ってるでしょ? 明日出直すよ。帰ってきたことだけ伝えておいて」
「はい、わかりました」
「ん。じゃーね。おやすみ」
ひらりと手を振って、フランシスは出ていく。そしてすぐに気配も消えた。
すっかり書簡を読む気にはならなくなり、菊も立ち上がって几帳を抜ける。簀子に出て見あげた月は、これからのことを暗示するかのように鈍く赤色に輝いている気がした。