死人に口なし
序章@???
こんにちは。私、死体です。
……驚かれましたか? 私も、驚きました。なんせいきなりだったものですから、気が付いたら血がたくさん出て、死体になっていたんです。近道しようと路地裏に入ったのが運の尽き。もしかしたら、妻に内緒で買ったゴルフクラブのバチが当たったのかもしれません。
家では妻に怒られ、会社では上司に怒られ、うんざりする毎日でしたが、こうして死んでみると、そう悪くない人生だった気がしてきます。不思議なものですね。
私が路地裏に転がっていたら、一人の少年が通りかかりました。高校生ぐらいでしょうか。学生服を着ています。もう目など見えないはずなのですが、私の眼球は確かに、少年の姿を映していました。なかなか格好のいい少年で、もしも生まれ変わることがあったなら、是非こういう顔に生まれてみたいものです。
少年は驚いた顔をしていました。当然です。私と血溜まりが通せんぼしているのですから。大変申し訳ないのですが、どいてあげることはできません。私、死体ですから。あぁ、どうかそんな顔なさらないで。怖くなんか無いですよ。
少年が立ち往生していると、もう一人少年がやってきました。お友達でしょうか。こちらはなんと、金髪です。もしかして不良でしょうか。親父狩りに会うのは三度目なので、慣れっこです。お金は使い道が無いのでかまいませんが、身元の分かるものは残しておいてくださいね。妻の元に返れませんから。まぁ、こんなぼろきれみたいな私、妻はいらないでしょうけど。
おっと、気をつけて下さい。躓いたのでしょうか、金髪の少年が倒れこんで来ました。こんな、血でベタベタですみません。普段は油でぎとぎとだと妻に言われるのですが、どっちがマシでしょうか?重いわけではありませんが、どうせ圧し掛かられるなら女子高生が良かったです。……調子に乗りました、すみません。妻には内緒にしといて下さいね。あぁ、どうぞ、財布からクリーニング代を持って行って下さい。そう遠慮なさらずに。ね?