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死人に口なし

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憂鬱@静雄


「消えた死体の謎! いいね、漫画みたいだ!」
 放課後の教室に、新羅の朗々とした声が響く。昨日の一部始終を話して聞かせた静雄は、目を輝かせる新羅とは対照的に、疲れた顔で頬杖をついていた。窓際の自分の席に座って、ひたすら溜め息を繰り返す。
「あれ、どうしたの? 元気ないね。こういうのって、なんだかわくわくしない?」
 静雄の席の傍に立っていた新羅は、楽しそうに眼鏡の奥の瞳を瞬かせた。



 昨日、気が付くと静雄は病院に居た。どうやら、あの後ふらふらと通りへ出た静雄を見て、誰かが通報したらしい。救急車に乗せられたものの、特に外傷があるわけでもない。静雄は救急隊員に説明したつもりだったが、結局、用も無い病院に担ぎ込まれてしまった。

 静雄は、スプラッタ映画のような格好のまま、病院の長椅子に座らされていた。家には病院側が連絡してくれたようだ。すぐに着替えを持ってきてもらえると言われたが、乾いた血がこびりついた制服は不快で仕方がなかった。
「平和島、静雄君?」
 不意に声をかけられて、静雄は顔を上げた。目の前に何かを提示される。静雄はそれが警察手帳だと気付いて、ようやくぼんやりしていた意識を覚醒させた。目の前には壮年の男性が立っている。少し離れた所に、もう一人若そうな青年がこちらを見ていた。
「ちょっといいかな?」
「……はぁ」
 静雄は力なく頷く。
「どうして血まみれで歩いてたんだい? 何があったか教えてくれる?」
 静雄は言いよどみながらも、その時の状況を語った。同級生を追いかけていて、路地裏で死体を見つけたこと。どうしてか倒れこんでしまい、呆然としていているうちに病院に連れてこられたこと。話しながら、静雄はようやく、臨也が自分の背を押したのだと気が付いた。思わず眉間に皺が寄る。そんな静雄を前に、壮年の男は言い辛そうに口を開いた。
「いや、決して君の言葉を疑ってるわけじゃないんだがね……無かったんだよね、死体」
「は?」
 言葉の内容を理解して、静雄はぽかんと口を開けた。
「血痕は確かにあったんだけど、本体はどこにも……」
「…………でも、見ましたよ」
 静雄は少しむっとして言った。
「だよねぇ。どこ行ったんだろうねぇ……?」
 男は腕を組んで首を傾げた。静雄も同様に首を傾げる。男は温厚な性質だったようで、見事静雄を怒らせることなく話を聞き出した。

 結局、たまたま家にいたという幽が着替えを持ってきたので、静雄は家に帰ることになった。
「もし何か思い出したらここ、連絡して。本当はさっさと忘れちゃったほうがいいんだけどね。ま、一応」
 そう言って、壮年の男は名刺を静雄に渡した。結局、青年の方はずっと遠巻きに見ているだけだった。



「普通は気分悪くなるだろ……実際、寝不足だしよ……」
 静雄は、深々と溜め息を吐いた。
「そうかな?」
「幽もゾンビがどうとか言って、なんか楽しそうだったけどな……」
 話して聞かせるうちに目を輝かせはじめた弟を思い出して、静雄は再び嘆息した。新羅はこの調子だし、両親に至っては、血だらけの制服を見た第一声が「殺してないでしょうね!?」だった。静雄は、別の意味でも憂鬱だった。
「そういえば、セルティがゾンビを倒すホラーゲームにはまってるんだよね。今流行ってるみたいだよ? 銃持って戦うやつ。結構面白いみたい」
 教室は既に生徒が捌けていたので、二人の話を聞き咎めるものはいない。新羅は立っていることに疲れたのか、静雄の前の席を陣取って腰を下ろした。静雄は、新羅の話を右から左で、ぼんやりと窓の外を見ていた。
「ほんとにぐったりだね」
 新羅も静雄に倣って、窓の外に視線を向けた。快く晴れた放課後の校庭。静雄は、窓際の席から見える、この風景を気に入っていた。
「……そりゃ、お前じゃねぇんだからよ」
 静雄は力無く呟いた。部活動に勤しむ生徒の姿を、何の気なしに目で追いかける。柔らかく日差しが差し込み、寝不足の静雄はまどろみに誘われつつあった。
「まぁ、僕は子供の頃から慣れてるからね。……君がそれだけ参ってるなら、臨也はどうなのかな? 弱ってたら見ものだよねぇ」
 途端に、静雄は眉間に皺を寄せた。しかし、確かに怒りの感情も湧くが、昨日の光景が連想されて、結局妙な不快さだけが残った。
「……あいつの名前を出すな」
「でも、君だって見たいんじゃないかい? 臨也が弱ってるとこ」
 新羅はわざとらしく、人の悪い笑みを浮かべた。こういう所が偶に臨也に似てる気がして、静雄は少し気に入らない。静雄は眠気を振り払い、低い声で言い切った。
「顔も見たくない」
「君達って、なんていうか不毛だよね」
 新羅が呆れて肩を竦めたところで、音を立てて教室の扉が開いた。誰か忘れ物だろうかと思いながら、二人は扉に目を向ける。
「あれ、どうしたの?」
 新羅が不思議そうに声をかけた。そこに立っていたのは、このクラスの人間ではなかった。しかし知らない人間でもない。
 門田京平が、困惑気な顔でそこに立っていた。嫌な予感がして、静雄は無意識に眉を寄せる。
「臨也が車に拉致られたんだが、これってどうすればいいんだ?」

作品名:死人に口なし 作家名:窓子