ルノ・ラダ ~白黒~
男らしさ
ルノが頼まれていた稽古の相手を終えて軽く汗を流し、どこかでぼーっとしようかなと思いながら歩いていると向こうの方にラダの姿が見えた。
女性と何か話していた。
時折一緒に笑い合っていたから世間話か何かだろう。
こうして見るとラダには悪いが男には見えない。
だが下手をすると女性よりも尚綺麗で色気のある様子は中性的な魅力なのかもしれない。
そういえば・・・。ふと前にオウランが言っていた言葉を思い出す。
”ラダは女性を知っている”
なんだか変な気持ちだ。ヤキモチ?それとも男として負けたような気分?羨ましい気分?
考えてみたがどれも違うような気がする。
もともと興味がないとまではいかなくとも別にしてみたい、という気持ちもないし(どちらかと言えば誘われても断っていたような気がする)、ヤキモチというのも何かピンとこない。
でも相手が男だったら・・・?・・・あ、これははっきり分かる。嫌だと思う。
「・・・ノさーん。」
あれ・・・?もしかしてラダの事女性のように見てる・・・?
だから女性を知っているラダというのにピンとこないとか?
「ルノさんってば。どうされたんですか?」
気付けばラダが目の前にいた。
「わっ、び、びっくりした。」
「あ、ごめんなさい。でも向こうからずっと声かけてたんですけどねー?ルノさん全然気付かないっていうか何か考え事ですか?」
「え?あ、う・・・いや・・・。」
「?・・・いい天気ですし、外で飲み物でも飲みながら日向ぼっこしません?」
「あ、ああ、うん、いいね。」
2人は連れだって歩き始めた。
「で、どうされたんです?何かありました?」
テラスで飲み物を飲み始めると、ラダは再度質問した。
「え?いや、どうもしないよ。」
「そうですか・・・。」
ラダはなんとなくがっかりしているように見えた。
「・・・あー、その、ね。えっと・・・そういえばラダはその、女性との経験、あるの・・・?」
悲しそうに見えて思わず口に出してしまった。
「え・・・?」
「あ、いや、えっと、ごめん、何でもない。」
「あ、いえ・・・。どうしたのかと。・・・でも・・・はい、ありますよ。」
ラダはまっすぐにルノを見て言った。
その時にルノは気づいた。
別にラダを女性扱いしているわけではなかった。むしろこの華奢で美しい子を、男らしいとさえ思っているということに。
そして、女性と関係があるという事でなおさらラダの男性的な印象が強まり、自分の至らなさに気づかされたからこそ違和感を覚えたのだということに。
「・・・そういう私は・・・嫌、ですか?」
ラダは相変わらずまっすぐな、でもすこし先ほどよりは不安にゆれた瞳でルノを見つめてきた。
「いや・・・。そういう事は僕は気にならないよ。ただ・・・」
「・・・ただ・・・?」
「うん・・・。ただね、僕は前からラダの事、とてもしっかりした素晴らしい人だと思ってるんだ。」
ラダは思いがけない言葉にきょとんとした後、赤くなった。
「でね、その、今回、あらためて君のことを本当にしっかりした、男らしい人だと思っていたんだなぁって気づいて。」
「そ、そんなっ・・・」
ラダがさらに赤くなってあわてたように否定しようとした。
「ううん、本当の事だし・・・。で、あらためて自分の至らなさが情けないなぁて。僕は君と付き合えるような男では・・・」
「ちょ、ちょっと待って!!」
言いかけたルノをあわててラダは遮った。
「も、もうルノさんっ。なぜそんな発想に至るのか・・・相変わらずの天然さん具合で何よりですが、何をおっしゃってるんです!?ルノさんほど素晴らしい、何でも出来る素敵な男性なんて、どこを探してもいらっしゃいませんよ!?ルノさんが男性らしくないというなら、世界中の男が男ではないですっ。」
あまりの剣幕に少し驚きつつルノが口を開こうとしたが、ラダがさらに続けた。
「それにわたしにとって最高に男らしいこれ以上ない男性なんです。わたしはルノさん以外はいらない。ルノさんだからこそ愛してるんです。だからもうそんな変な事、考えないで下さい。わたしは自分をごまかす事はいっさいしません。だからルノさん・・・わたしの気持ちを無下にしてそんな事、考えたり言ったりしないで・・・。」
そう言うとラダはギュっとルノに抱きついた。
最初は唖然とした様子だったルノも、ふっと息をついた後、手をラダの背中にまわし、ポンポン、と軽くたたいた後、ギュっと抱き返した。
「うん・・・そうだね、ごめんね。まぁ、こうゆうところが僕のだめなところなんだろうね・・・。ありがとう・・・ラダ。」
ラダはそっと顔をあげるとルノを見つめた。
ルノはラダの頬をそっとなでた後、引き寄せキスをした。
ラダは幸せな気持ちになりつつ、ふと、これでまた前進できたかな、とほんのり不謹慎な考えが過り、ニヤリとしないでもなかった。
作品名:ルノ・ラダ ~白黒~ 作家名:かなみ