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ルノ・ラダ ~白黒~

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大会



「ちょっと皆さん、最近たるんでやしませんか?」

兵士達を集めてラダは活をいれた。

ラダ曰く、ルカを倒してから今のところ特に戦いがないからといって鍛錬が足りない、との事だった。

「もうちょっと気合を入れて訓練してくれないと困るんだが。何かあってからでは遅いんだからね。」

その後シュウに呼ばれてラダはその場を離れた。

「とは言ってもなあ、どうもルカっていう強烈な対象がなくなったからなあ。」

ビクトールがうーん、と呟く。では、こういうのはどうです?とカミューが提案する。

「題して、軍主様争奪戦、誰がラダ様のキスを勝ち取れるかトーナメントーっ、ていうのは?」

あきれるビクトールをよそに、ワアーッとその場が沸き立つ。
一斉に皆がやる気を出す。

試合は1週間後。
勝ち抜き戦で優勝者にはラダから好きなところにキスをしてもらえる、というなんとも微妙というか微笑ましいというか、何とも言えない褒美だが、誰もが色めきたった。

さっそく皆が訓練に入る。ラダが戻った頃には打って変わって相当な気合の入った訓練が行われており、あまりの豹変ぶりに彼は唖然とした。
魔法兵も、白けたような表情のルックに必死になって鍛えてもらっている。
ラダはそのルックのところへ行った。

「・・・ルック?これはいったい・・・?」
「・・・ああ。君が行った後でろくでもない大会が催されることに決まったようだよ。」
「大会?」
「勝ち抜きトーナメント。」
「へえ。別にいいじゃないか。そんなで兵達がやる気をみせてくれるならいくらでもすれば。別に遊び要素があるくらい問題ないだろ。」
「・・・景品がね・・・。」
「何なの?」
「・・・君のキス。好きなところにキスをしてもらえるっていう。」
「っぶっ。何それ。そういうのは普通本人の同意のもとで決定するものでないのか?」
「こいつらにそんな配慮があるとは思えないね。で、どうする?士気を下げてでも取り下げるかい?」
「・・・意地悪な言い方だね?そう言われてそれでも止めさせるとは言いにくくないかい?」
「僕はただあるがままに言っただけだよ。どっちでもかまわない、けど好きなところってのは気になるね。」
「確かに・・・。すっごい生理的に受け付けないような人とか、変なとこ希望するような人が勝者だと辛いな・・・。」
「やっぱりやめるかい?」
「うん・・・、いや、強化訓練の為、と思うようにするよ。」

しばらく皆の様子を見ていた後、ラダはルノに用意している部屋に行った。

ルノはラダ自身に協力してくれるというのでちょっとした遠征などには快くついてきてくれる。
だが戦争自体には参加するつもりがないので、普段の訓練には参加していなかった。
ラダもそれで良かった。
というかラダはルノが近くにいてくれるだけでいいと思っているようだが。
周りにもルノは自分の側近のようなものだがら、と言ってある。

本当はルノはいっそ自宅に戻るから用があるときだけ声をかけてくれれば、と言っていたのだが、そうなると中々会いたいと思っても会えなくなってしまう。
だから普段は自宅にいるみたいにくつろいでいてくれればいいから、とお願いしたおしてここに住んでもらっていた。

「ルノさん、いてますか?」

ノックして部屋を開けた。

「ああ、ラダ。どうぞ。入って?」

一人掛けソファーに座ってお茶を飲みながら本を読んでいたようだ。
何もしないでただ飯食らいになるのはいやだと最初はせめて宿に泊まると言っていたのだが、きちんと用があるときは一緒に来てくれ戦ってくれているじゃないか、とラダが必死に説得したのはつい先日のことである。

「ルノさんっ。会いたかったですー。」
「え・・・?でも昨日も会ったよね・・・?」
「昨日は昨日。今日は今日ですよ。・・・相変わらず何もない部屋ですね。ほんとにこんなでいいんですか?何なら言ってくれれば運びますよ?遠慮とか嫌ですよ?」
「ううん、十分だから。ありがとう。」

部屋の中はベッドと横にランプを置いている小さな棚付きスタンドと一人掛けソファーと小さな丸テーブルだけだった。

「あ、でも君が座れないね。僕はベッドに座るから君がこの椅子に・・・」

そう言ってルノは立ち上がろうとした。

「いえ、いいんです。ルノさんはそのまま座ってて?」
「でも・・・」
「じゃあ、私がルノさんの上に座ってもいいですか?」
「え・・・?」

ラダは答えを待たずスッと動き、ソファーに座っているルノの上に横を向いて座った。

「これで問題ないじゃないですか。」
「え?いや、でも・・・」
「だめ・・・?私重いですか?しんどい?」
「いや、君は実際軽いし、そういうのじゃなくて・・・」
「じゃ、いいじゃないですかー。」

ラダは手をルノの首に廻して頭を胸元に寄せた。
とても落ち着く。
自分と同じ洗濯石鹸の香りの他に何か別の香りがした。

「ルノさん、香水つけてます?」
「え?ううん、つけてないけど?」

ということはこれは体を洗った時の石鹸とルノの体臭が交じり合って出来た香りかとラダは思った。

「ルノさん、良い匂いがします・・・。」

鼻をルノの胸にこすりつけるようにくっつけて、めいいっぱい深呼吸した。

「え、あの、ちょっと・・・。」

まるで子犬のようにまとわりついてくる(いや、別の人間なら妖艶な猫のように、と思っただろうが・・・)事に、ルノはため息を1度ついた後、ラダの頭を撫でた。
その行為にラダはドキッとしたがなんとなく複雑だった。でもとても気持ち良かった。

「君の髪は猫みたいに柔らかくて気持ち良いね?僕の髪とはえらく違う。」
「そうですか?」

ラダは顔を上げてルノを見た。
そして首に廻していた手をルノの髪にやった。
さらさらとしつつしっかりした髪質。

「ルノさんの髪も気持ちいいですよ?ガシッてつかみたくなる。」
「何?それ?」
「ガシッてつかんでね、そしてキスしたくなるんです。」
「・・・え?」
「ねえルノさん。キス、してもいいですか?ほんとはあなたからしてもらいたいんだけど、あなたは私の事まだ好きでもないのに無理なお願いだろうし・・・。だから私からキス、したらだめですか?キス、嫌ですか・・・?」

まっすぐルノを見つめてラダはお願いした。

「え、うーん・・・キスって、その、それこそ恋人同士とかがするものでしょ?僕と君は悪いけどそうではないよ?」
「う・・・今のは効きました・・・。どんな攻撃よりもグサッと・・・。」
「あ、ご、ごめん・・・。」
「いえ、ごまかされるよりいいです。でもルノさん。特別なキスは勿論恋人同士だけの甘い特権ですけど、もっと気軽なキスもありますよ?友達同士の。」
「そうなの?でもそれはマウス・トゥ・マウスじゃないでしょ?頬とか耳横の空気に、とかでしょ?」

ち、知ってるのか、とラダは内心残念がった。
ルノは経験もないと言っていたし初心っぽいのでなにも知らないかなとか思ったが、甘かったようだ。
まあ考えたら元貴族の息子。知識は色々とあるのかもしれない。

「ていうか・・・、じゃあルノさん、挨拶程度のキスならしたことあるの?」
「うん、まあ礼儀程度なら。」

ラダは内心怒りまくっていた。
作品名:ルノ・ラダ ~白黒~ 作家名:かなみ