ルノ・ラダ ~白黒~
勿論ルノに対してではない。過去ルノと軽い関わりですら持った相手に、である。
「そんなの、やだっ。」
ラダはまた手をルノの首に廻して今度はギュウっと抱きついた。
「え、やだっていっても・・・もう昔の事だし、ホントに挨拶程度だし・・・。・・・怒ってるの・・・?」
「だって、だって私はルノさんが大好きだから・・・いくら過去の事だろうと、いくら挨拶だろうと・・・ヤ、です・・・。」
ルノは少し、可愛い、と思った。
ラダの背中をポンポン、と軽くたたいてやる。
対してラダは思った。
ルノさん、優しい。優しいけど、これって子供扱い、だろうなあ。
そっと顔を離し、またルノを見た。
「ルノさんは私の事、友達としては好いてくれているのですよね?」
「え?うん。」
「その友達が賞金として誰かにキスするのって、どう思いますか?」
「え?」
ラダは先程の訓練所での事を話した。
「えー、ラダ。いいの?」
「うーん、ルックにも言ったんですけど、生理的に受け付けない人とか変な場所希望する人が優勝したらやだなーって思います。」
「それだけ?うーん、まあ僕とラダでは受け止め方が違うんだろうけど・・・。じゃあラダはキスって軽いものだと思ってるの?」
「いえ、大切なキスもあると思ってますよ。」
「でも簡単に出来ちゃうものなんだね。」
「・・・軽蔑しますか?」
「ううん。ただ考えが違うだけだと思うから。」
「・・・でも、ね?さっきルノさんが挨拶程度のキスはあるって言った時、私物凄く嫌だったんです。自分は軽い気持ちでも出来るのに。これって酷く勝手ですよね?」
「どうだろうね。でも、まあ僕も君にキスされた時、まあいいか、で終わらせちゃったでしょ?でも多分自分の恋愛相手が誰かとキスしたって分かったらまあいいか、で終わらないと思う。とても嫌だと思うと思うよ。」
「・・・ルノさん・・・。慰めてくれる為に言ってくれたんでしょうけど。それは私は眼中にないと宣言してるようなもので、かえってきついです。」
「あっ。ご、ごめん・・・。僕ちょっと無神経なとこあるよね・・・。」
ラダはまたルノの胸に顔をあてた。
「いや、まあ、それもルノさんの魅力の1つなんでしょうけどね。ねえ、ルノさんはそのトーナメントには出てくれないんですか?」
「え?うーん、僕は関係者じゃないから・・・。あくまでも君への協力って事で承諾したからね・・・。」
「だったら私に協力、して下さいよー。」
「え?どういう事?」
ラダはまた深呼吸してルノの匂いを楽しんだ後、顔を上げ、首に廻していた手をルノの両腕に移した。
「このままだと私は誰かにキスしなきゃいけなくなる。でも私だって別に仕方ないか、と思えるだけで、本音は誰とでもしたい訳じゃないんです。出来れば好きな人としたい。かといって、あんなに皆がはりきっている中、嫌だと水をさしたくない。・・・正直に言います。ここにはルノさんに出て欲しいとお願いする為に来ました。・・・ただ先程の話をまとめると私が避けようと思っている事をルノさんにお願いしている事になるんですよね。要はルノさんに好きでもない人とキスをして下さい、と。あーあ、ルノさんが私とキスするのが嫌じゃなかったら良かったのに・・・。」
喋ってしまうと、ラダはルノから下りた。
そしてニッコリとルノに笑いかけると踵を返した。
「私に協力しろっていうのは冗談ですよ。言ってみただけです。じゃあまた後で。夕食、一緒に食べて下さいね?」
「あっ、ラダ。」
「何です?」
あれ、僕は何でラダを呼び止めたんだろう?気がつけば呼び止めていた。
でも確かにラダが言った事も分かる。
自分の時はそんな変わった案など出た事がなかったから良かったようなものの、もし士気を上げる為なのだとしたら、自分だってそうそう断れやしないかもしれない。
数日周りを見ていて思っていた。
ここにはあまりにもラダに妙な気持ちを抱いている者が多いのでは、と。
ラダは実際綺麗な子だから、きっと昔からこんな環境だったのかもしれない。
小さな頃から体術を習っていたと聞いている。身を守る為だとナナミが言っていた。
ふとラダが不憫に思えた。
ずっと身を守りつつそれなりに対処してきたのだろう。
それなりに上手くあしらって変な諍いが起こらないようしてきたのだろう。
「いいよ、僕はそのトーナメントに出よう。」
「・・・えっ?ほ、本当ですか!?」
「うん。変な人が勝っちゃったらラダが可哀想だものね?いいよ。それに、好きなところでしょ?」
「はい。」
「だったら頬とかでもいい訳だ。別にそんななら嫌じゃないよ。」
てことはやっぱり口づけは嫌なのですか、とまたショックを受けたが多分ルノは深く考えて言った訳じゃないだろうと思うようにした。
ありがとうごさいますっ、と心底嬉しそうにラダはルノに抱きついて礼を言った。
後でラダはルックに、ルノさんが出てくれる事になった、と嬉しそうに報告した。
「良かったじゃない。ていうより君もルノ自身も、彼が出ることで間違いなく優勝すると思うところがさすがというか何というか・・・。」
「だって、ルノさんだよ?負ける訳、ないでしょう?」
確かに当日、鍛え上げ自信をつけた数多くの兵をもろともせず、ルノは余裕で勝利した。
言っていた通りルノは頬を希望した。
何て勿体無い、と周りが呟くなか、ラダはニッコリ、だが少し淋しげに微笑んで、この勝者に感謝を込め、頬に優しくキスをした。
作品名:ルノ・ラダ ~白黒~ 作家名:かなみ