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Can’t take my eyes off of you

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 いつのまにかNが消えている。母親を見失った子供さながらきょろきょろ視線を走らせ、入り口付近にいるのを見つける。Nは誰かと喋っている。眉根を寄せて凝視すると、すらりとした長身の男だと分かる。モデルの一人のようだ。担当でもないくせに、知り合いなのだろうか。NはUの視線に気付くとにこっと笑い、男と一緒に戻ってくる。近くで見ると、彼は男というより少年といった方が適切だった。この子ですよ、とNが言った。含むところが理解できず、けれど変な質問もできずに黙っていると、やだなあ、教えてあげたじゃないですか、去年のオーディションでトップだった子って。純日本人がグランプリ取ったのは久々なんですからね。Nが自分のことみたく胸を張るので、後ろにいた「この子」がにやっと笑い、そういえばとUは思い出す。何頭身だろうと、Nが指ではかっていたのはこの子の写真だった。あの写真の持っていた印象とはちょっと違って、くずれた雰囲気をしてるけれど同一人物だ。小さな頭と長い手足(この現場では没個性)、日本人らしく目元は平面だ。――それはすごい、おめでとうございます、初めまして。Uは間の抜けた挨拶をして、癖でつい手を差し出す。「この子」、Rがそれを握り返す。あまり体温の感じられない手。
 じゃあ僕これから撮影だから。すたすたとカメラの前に躍り出るRに、遅えじゃねえかとMが文句をつける。ごめんごめんホームルームがなかなか終わらなくて。お前がホームルームなんて出るたまかよ。あ、ばれた? 頭悪いのに鋭いなあ。無駄口叩いてねえでとっとと準備しろ!
 りょーかい。
 Rが答えた瞬間スタジオの空気が変わる。ぴりっと緊張の糸がはりつめる。何が起きたのか一瞬分からない。カメをいじるMの後ろ姿すらさっきとはまるで違っている。Rがおもむろにポーズを取る。シャッターが押されるたび、少しずつ角度や表情を変えていく。ホームルームがどうの、と言っていた高校生にはとても見えない。生唾をごくりと飲み込んで、Rから目が離せなくなっている自分に気付く。スタジオ中の人間が同じ経験をしていると確信に近いものを抱く。
 よし、これで終わりだ。
 Mがそう宣言するやいなや、Rは元に戻った。魔法がとけたように、ただの高校生に戻った。お疲れ様でーす。ありがとうございましたー。今日の分の撮影は終了、片づけて撤退、誰かが指示を飛ばしている中、Uは信じられない思いで立ち尽くす。カメラの前にいたRは一体何者だったのだろう? 大丈夫ですかあ放心してますよう。Nが半笑いでUの背中をつつき、ようやくUの時間は動きだす。
 ねえ、あの子もしかしてすごいの。訊ねると、すごいに決まってるじゃないですか、プロなんですよ。高校生だけどこの世界長いですしね。撮られることにかけては超ベテランです。Nはまたもや胸を張って答え、リュウちゃーん、とRを呼びよせる。なあにー、とひょこひょこやってくる。この二人知人以上の関係なんじゃとUは訝る。お互い相手をよく知っているようだ。こちらのウラちゃんがですねえ、とNが言う。リュウちゃんに一目惚れしてしまったそうです。何バカなことを、たしなめかけてはたと止まる。バカなこと、だろうか? Rが子猫めいた笑みをこちらに向けて、そうなの、と言う。Uは曖昧な笑みを浮かべるのが精一杯だった。
作品名:Can’t take my eyes off of you 作家名:マリ