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家庭教師情報屋折原臨也

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高校三年生。進学を考える誰もが大学受験という大きな壁にぶつかってしまうこの時期に、平和島静雄は母親の薦めもあって、春から家庭教師にお世話になることになった。と言っても、静雄は、実のところ、それほど頭は悪くない。むしろ良いといってもいい方である。なぜなら、彼は口下手であるがゆえ友人がなかなか作れず、部活にも入らず、休み時間や自宅にいる時間の大半を勉強に回していたからだ。おかげでクラス順位が下位を争うようなことはなかったし、学年順位も常に上位にいた。本当のところ家庭教師など頼まなくても勉強できるだけの器量を持ち合わせていたが、それでも従事したのは、ひとえに母親を安心させるためでもあった。
 静雄は確かに学力面では問題はない。問題なのは学生としての生活の方にあった。
 金髪というだけで、人より少し強い力を持っているというだけで、その目つきだけで、学内はおろか学外からも不良たちの根も葉もない因縁に付き合わされてきた。また、それをことごとく力でねじ伏せてきたことで、彼らと同等の『不良』というレッテルを貼られてしまっていたのである。そう見られることよりも静雄にとって辛かったのは、そのせいで周りの人々が遠ざかっていったことの方であった。
 そして今日は、静雄を担当する物好きな(静雄視点)家庭教師が初めて家に来る日であった。静雄は物の少ない自室をとりあえず掃除して体裁を整え、椅子を余分に一つ置き、時間内に終わらせようと考えている勉強道具を机の上に用意して待つこと数分。家のインターホンが鳴った。インターホン越しの母親の応答から、来たのがその家庭教師だと分かり、静雄は少し緊張した。
 部屋と廊下を隔てる壁一枚向こうで音が聞こえた。言葉という形は持っておらずとも、その低いトーンから少なくとも家庭教師が男であることが分かった。そして次第に足音が近づき、それは静雄の部屋のドアの前で止まった。二度ほどノックされたので、「どうぞ」と静雄は言った。
 ドアが開いた。
「こんにちは」
入ってきたのは二十代の若い男だった。秀麗な顔に人の良さそうな笑顔を浮かべていた。これが女子ならば、普通の一般の男子なら、なにも思わない。ただのかっこいい家庭教師。それですまされただろう。
「…うも」
しかし静雄は違った。散々不良たちとかかわってきたためか、他人の態度、感情、考えを読むのが得意になっていた。今もその思考が働いているが、彼の笑顔に安心どころか、恐怖に似た不安のようなものを感じた。この男と三時間を週三日、一年間過ごさなくてはいけないのかと思うと、背筋が寒くなった。
 青年は静雄が用意しておいた椅子に座った。その動作さえも、どこか洗練されたように見えるのはきっと生まれがよいのだろうと静雄は思った。
「まず自己紹介からかな」
青年は提げていた鞄からノートを一冊取り出した。それをぱらぱらとめくり『平和島静雄』と達筆な字で書いてあるページを開いた。そしてブランド名が焼き押しされた革のペンケースからどこにでも売っているボールペンを一本取り出した。
「一方的に話すだけじゃつまらないから、お互いに質問形式にしてもいい?」
俺も君のこと知りたいから。
その提案に静雄は賛成した。ルーズリーフを一枚用意し、ボールペンを持った。しかし青年の名前を書こうとして手が止まった。家庭教師を頼んだとは聞いたが、肝心の名前を、静雄は母親から聞きそびれてしまっていた。
「俺は、オリハライザヤ」
そう言われ、静雄は手を動かした。姓は書けたが、名前の漢字が分からなかった。当て字であることは予想できたのだが、『イザヤ』と当てられる字がない。イザヤと言えば、あの聖書に出てくる預言者のことが頭に浮かんだが、特に宗教に興味もなければ彼が何をしたかも知らなかったので、聖書にいる人物で考えは終わった。
「…名前は」
「面するって意味の臨むに、なりって読む也を書くよ」
青年、折原臨也はボールペンで宙に文字を書いた。それをまねて紙に書き、静雄は改めて名前を見る。

『折原臨也』

変わった名前だなあと思った。
「じゃ、質問に入ろうか」
臨也は椅子を回して静雄の方を向いた。それにならって静雄も身体を向け、少し姿勢をただした。
「まずは俺から。志望大学は?」
「…特にないです」
「そう?」
『特になし』と、読みやすい字で書かれた。将来何がしたいかとか、何を学びたいとか、静雄は全く考えを持っていなかった。ただ漠然と大学進学の道を選んでいた。大学と聞いてふと気になったのは。
「折原さんはどこを卒業したんですか?」
静雄も問いかけた。広告などではよく書かれているが、件の如く、静雄は何も知らない。
「T大、って言えたらカッコイイだろうけど、まあそこそこいい大学は出たよ」
明確な答えが返ってくると思っていた静雄は少し止まった。結局どこの大学なのか。そこを尋ねたかったのだが別に詮索する気はなかった。静雄は臨也が話した通り、『中堅大学卒業』と書いた。
「苦手な教科は?」
「特にないです」
静雄は即答した。どの教科にも一長一短があるので好きな教科も嫌いな教科もなかった。強いて言えば音楽と美術が苦手だったが、芸術系の大学に行く気はないので問題はないだろう、と静雄は思った。
「すごいね、オールマイティだなんて」
俺には到底できなかったよ、と両手を広げて大げさに臨也は言った。
「あったんですか?嫌いな教科」
そう尋ねると、臨也は大きく頷いた。意外だった。
「文系の科目とかあんまり好きじゃなかったなぁ。日本史とかどうして過ぎ去った時代とか日本社会の失敗を学ばなくちゃいけないんだろうって。今だに繰り返したりしているんだから無駄じゃないとか思わない?」
日本史から始まった臨也の苦手論、と言うよりもその教科に対する不満を、現代文古文漢文世界史など多岐にわたって静雄は聞くことになった。その内容は静雄も納得できる部分もあれば、そんなことと言うような些細なことまで様々だった。しかし文系科目の中で唯一倫理は好きだったようで、帰納法やイデア論は楽しかったと臨也は言った。
「あ、でもちゃんと文系の質問も受け付けるから大丈夫だよ」
多分この人に『できない』科目はなかったのだろう。静雄は頷くと同時に、そう思った。
その後も趣味や特技、好きなもの嫌いなものその他について質問しあった。途中好きな人はいるのかと個人的な質問を聞かれたが、その質問に答える必要性を感じなかった静雄は、答えなかった。
「さて、質問はこれくらいにして、勉強しようか」
「はい」
静雄は臨也について書き留めたメモを見返した。

『 折原臨也
中堅大学卒業。文系科目が嫌い。(できないわけじゃない)二十三歳。
好き 自分の気に入った物すべて
嫌い 自分の気に入らないものすべて
資格 英検一級、漢検準一級、数検準一級、第一種高等教育教員免許(英語、地歴、数学)他
趣味 人間観察、勉強
特技 パルクール、ロシア語         』