二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

家庭教師情報屋折原臨也

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 




――― 可愛いなぁ
気を取り直そうとしている静雄の様子を見て、臨也は思った。その後目が合ったが、すぐに逸らされてしまった。
 実のところ、臨也の本職は家庭教師ではない。『情報屋』という有形無実の仕事の方が本職であった。家庭教師をやっているのは自分の教養を保つための手段にすぎなかった。静雄を選んだのは、実は臨也を指名してきた人数の多さから抽選となり、適当に書類を引っこ抜いた結果静雄が当たったという偶然の機会であった。いつもどういう運命か女子生徒ばかりを見ていた臨也にとって平和島静雄という男子生徒はひどく新鮮に目に映った。自分を選んだ平和島静雄とは一体どういう男なのか。そんな興味が頭に浮かんでいた。
 『平和島静雄』に関する情報は驚くほど速く、大量に、詳細に集まった。しかし、どれも似たような内容であった。『池袋最強』『自動喧嘩人形』等々、挙句『化け物』。いったいどんな巨体の持ち主なのか。はたまた不良なのか。正直面倒見るの嫌だなあと思っていた矢先、実際見てどうだろうか。臨也にしてみれば不良どころかただの純粋すぎる男子高校生にしか見えなかった。金髪というのは年齢もあるだろう。顔もその辺のアイドルの顔より綺麗で、喧嘩をしてばかりいるという割に怪我の跡ひとつ無ければ、言葉遣いや性格、態度にも問題がなかった。確か弟が俳優だったかなと臨也は一言付け加えておいた。とにかく自分の描いた人物像は間違いも甚だしい馬鹿げた偶像となった。だが人は見かけで判断できないということは、もはや情報屋という仕事の中では常であった。こんな細い体格をしていても、そこらの不良など本当に一蹴してしまうのではないかと疑ってしまう。

 再び勉強に集中し始めた静雄の背中を見ながら、臨也は勉強とかけ離れた別のことを考えていた。色白の肌、鎖骨の浮き出た首元、細い腰。臨也と同じような黒いVネックのシャツを着ているため肌の白さが余計に目立ち、臨也を危険極まりない思考に押しやる。これだけ容姿が良いのだから女の一人や二人いるのかと思えばどうやらそうではないらしいことが分かった。質問にこそ答えなかったが、明らかに付き合ったことはおろか、世間話をしたこともそうないことが見て取れた。彼は面白いのだろうか。臨也は考える。そういった趣味を持ち合わせているのかと問われれば臨也は否と答えるが、自分が気に入ったものを愛でるのは当然のことであり、臨也のものはそれが人の、同性にも当てはまるというだけのことである。しかしそれは少し、いやかなりねじ曲がった、そういった趣味に近い愛で方であるが。
 ――― あぁ、平和島静雄というこの青年を!
そう心のうちで叫んだ瞬間、静雄が臨也を振り返った。
「何か言ったか?」
「ん?何も言ってないよ」
「そうか」
何か納得できていない表情のまま、静雄は視線をノートに戻した。
心の中で叫ぶ分には罪にはならない。成年という壁は意外にも高いものであった。臨也は一人思った。



 三時間が経ち、臨也は筆記用具やノートなどを鞄の中にしまった。静雄の方もきりがついたので、問題集とノートを閉じ、机の隅にまとめた。
「あと聞いておきたかった問題はあった?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
そう言って頭を少し下げた静雄を見て、臨也は苦笑した。
「そんなに感謝されるほど教えてないよ。質問だって結局あれだけだったし、何で家庭教師なんて取ったのかなってこっちが疑問に思うくらいだったよ」
これは臨也の正直な感想だった。静雄は臨也が今まで見てきた生徒(と言っても女子ばかりなのだが)の中で一番頭がよかった。複雑な計算式も丁寧に且つ結構な速さで解くうえ、二次試験を想定した解答の書き方も定着していた。そんな彼がどうして家庭教師を取ったのかは疑問で仕方がなかった。
「…別に俺が取りたくて取ったわけじゃなくて、母さんが」
「そうなんだ」
――― なるほど。喧嘩ばかりしている子どもに対する自己満足か。案外信用されてないようだね。これはもしかしたら利用できるかもしれない。時間はきっとかかるだろうから。
臨也は相槌を打ちながら、別のことに考え耽った。
「……」
静雄は無言で、その様子を見ていた。今、彼はよからぬことをきっと考えているだろう、そうに違いない。そんな確信があった。しかし、それを止める権利も知る権利も静雄は持っていない。実行に移されて目に見える形でなければ何もできない。
「玄関まで送ります」
「あぁ、ありがとう」
今静雄が出来るのは、臨也をこの部屋から立ち去らせることだけだった。