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ブギーマンはうたえない 〈序章〉

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ブギーマンがやってくる♪
悪い子さらって食べてしまう♪
だからみんな閂を開けないで! パパとママが帰ってくるまで絶対に!
じゃなきゃ頭からガブリ噛み砕いて♪
ブギーマンがたべちゃうよ♪










むかしむかし、おおむかし。
それはとても麗しい男は、この上なく酷薄な笑みを浮かべて言っていた。


「どうしてブギーマンは人間に忌み嫌われていたんだと思う? モミの木よりも大きな長身のせい? 人の頭すら握り潰せそうな大きな両の手のせい? 己の姿を恐れて真っ黒のコートに真っ黒のハットという不審極まりない格好のせい? 何もしないはずなのに悪いことをしただけで子供を攫ってしまっていたせい? ねぇ、どうだろう?」


それは問いかけのような、問いかけではない彼の推察披露の語り口。
彼は人間全てを愛していた。とてもとても。非道な行いの上で人間がどう進化していくかを、まるで庭に咲く薔薇が咲き誇っていく様を慈しむように見守りながら。大変な労力の上にできた蟻共の巣を一瞬で打ち崩す子供のような瞳をしながら。
彼は人間を愛していた。人間を愛していたが、それ以外は愛することができなかった。


「俺はこう思うよ。彼は怪物のくせに分をわきまえず人間を愛してしまったからさ」



***