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まだ早い夜の断片

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竹下が姿を現したのは、約束の時間を十五分ほど回ってからだった。今着いたばかりの電車から足早に降りてきた、様々な年齢の人々に混じって改札を抜けてきた彼の姿を、北見は比較的早い段階で見つけることができた。長めの黒髪にやや人目をひく顔立ち、それにすんなりと締まった体躯。見慣れているからか、彼はなんとなく目立って見えた。竹下は少し視線をさまよわせながらこちらに向かってきて、北見が軽く手を挙げて場所を知らせるとすぐに気づき、ほっとしたような顔をして微笑んだ。
「悪い、遅れた」
 竹下は合流するなりそう云って手を合わせ、申し訳なさそうな顔をしてこちらを伺ってくる。そのいつも通りの様子に、北見はひとまず安心した。竹下に会うのが恐い、という気持ちが霧散して、普通に喋れるようになる。いつもの流れだった。
「別にいいけど、珍しいな。竹下が遅れてくるなんて。部活か?」
「いや……うーん、そうかな」
「なんだよ、歯切れ悪いな。まあいいや、とにかく移動しようぜ」
 二人はひとまず駅構内を出るために歩き出す。今日は何が食べたいかという話になって、彼らは駅の近くにあってよく足を向ける居酒屋やバーの名前をいくつか挙げ、その中でも特に安価で学生の利用客が多いチェーン展開の焼鳥屋に行ってみることになった。構内から出ると外は真っ暗だったが、街は色とりどりの電飾で輝いている。人々は駅構内とは異なってずいぶん明るく楽しげで、騒々しかった。その喧噪の中を歩いて大通りから少し外れた路地に入るとその店がある。立地はやや悪く思えるが、安いから客が絶えない。
 店に入ると人数を確認され、その後あっさりと席に案内される。店舗は狭く、その割に座席数は多いのだが、面積が面積だけに多いと云ってもたかが知れている。そして人気のある店でもあるから、予約もなくやや出遅れて来たにもかかわらず簡単に席までたどりつけるというのは思ったよりも運がよかったとしか云いようがない。現に、周りを見渡せばほとんどの座席は学生のグループで埋まっているし、多人数で訪れた人たちは待たされている。二人連れであったことも影響していたようだ。
作品名:まだ早い夜の断片 作家名:nabe