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「払いません!」

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「鋼の、助けてくれ」
「…やだよ、自分でなんとかしろ、めんどくせぇ」
「冷たいなあ。君が助けてくれないと約束が果たせないかもしれないじゃないか」
「…っ」
 エドワードはぎりっとロイを睨みつけた。しかし睨まれた当人はどこ吹く風で、むしろ唐突に現われたテロリストの皆さんの方がびびっていた。それくらい、鬼気迫る見事な悪役顔だった。
「なに、ちょっと身代金を払ってくれればいいんだ。520センズばかりね」
 ロイはけろりとした顔で言い放つ。やっぱりそれか、とエドワードは思い切り舌打ちした。
「いいからとにかく、こいつを引き取ってくれ!」
「うるせえな、ちょっと黙っ…、なんだって?」
 エドワードは怒鳴りつけようとして、割って入ってきた格好になったテロリストの言葉に動きを止めた。
 引き取ってくれとは、とても人質を取って脅しを掛けようとするテロリストのものとは思えない。
 エドワードは冷たい顔でロイを見つめた。
「…やれやれ、最近の悪役は根性がないなあ」
 少年の視線に、もはやごまかせないことを覚ったのだろう。ロイは肩を竦めて、拘束されていた両手をふらりと自由にすると、その動きのまま両側の二人を軽く殴り飛ばして、前に立っていた男は回し蹴りで地に沈めてしまった。
 あまりにもあっさりとした茶番だった。喜劇にもなりきれないような。
「…あんたに劇作家の才能がないって事はよくわかったけど」
「そうだね。しがない戦争屋だから仕方ない」
 やはり畑違いのことをやるもんじゃないね、ロイは軽く笑って手首を回した。あまり強く殴られたようでもなかったのに、最初に殴り飛ばされた二人はうめき声を上げて転がっている。
「こいつら、何」
「いや、君の後を追って歩いていたらね、善良な市民のお嬢さんにあくどく絡んでいたから人助けをしたついでに軽い指導をね」
 にこやかに笑いながら、這うように逃げようとした一人の背中をごりっと踏みつける様子は只者ではない。
 もはやあきれたものだかどうだか決めかねて、エドワードはただ溜息をついた。この小悪党どもこそいい災難かもしれない。もっとも、確かに、いい教育にはなっただろうけれど。
「…オレが騙されると思ったわけ?」
「ほだされてくれないかな、とは期待した」
 ロイは軽く笑ってエドワードの頭をそっと撫でた。そうして、目を細める。
「こんな馬鹿なことをしてしまうくらい、まいってるんだな、と」
 君は優しいから案外ほだされてくれるんじゃないかな、と。
 ロイはしらっとした態度でそう言って、にこりと笑う。
「……ほんとにあんた馬鹿だな」
 ロイに倣って、やはり逃げ出そうとしていた男の一人を蹴りで沈めて、エドワードは呆れた顔でしみじみと言ってやった。これくらいで堪えるような可愛げはない、とわかった上で。
 案の定、ひどいな、なんて言いつつも、ロイには堪えたところなど欠片もなかった。

 見回りの憲兵に小悪党を引き渡してから、二人は何となく揃って歩いていた。
「そういや、買い物袋どうしたんだよ」
「いや、それがね、脅されてやむなく取り上げられてしまったんだ」
「…あっきれた…」
 額面通りのわけがないから、恐らく、エドワードを追いかけるためにどこだかにあっさり放置してきたのだろう。こいつの神経を疑う、と思いながらも、そんなにしてまで追いかけてきたのかと思うと、ロイが言うようにほだされてしまいそうだった。
 大体、もとより嫌いな相手でなどないのだから。
「鋼の」
 考え事をしながらだから、反応が遅れた。
 顔を上げたときには既に、顎を捉えられていた。
「…もしもあれが君のプロポーズだというなら返済は迫らない」
「…ぷ、ぷっぷっぷろ、ぽーず…!」
 エドワードの頭は急速回転しすぎて活動をやめてしまった。ロイは惜しみない色気(推察するに、恐らくそういうもの)を漂わせながらエドワードを見つめる。瞬きの一つもしないで。
「…ではこうしないか、鋼の」
 動きを止めてしまった少年を離して、ロイは今度は穏和そうな顔で提案を口にする。どうにか呼吸が自由になったことに安堵していたエドワードの耳に届けられた言葉は、そして。
「君、私を520センズで買い取る気はないかね」
「……はっ?」
「うん、いい考えだ。私はそれ以外で返済は受け取らないことにしよう」
「ちょっ…、何言ってんだ!」
 エドワードは慌てて食って掛かった。
「大体人を買うとかそんなのな、金でどうこうとか、オレは嫌いだ!」
「そうだな、私も基本的には好きじゃない」
「だったら、」
「だが、君になら、私の残りの人生ごと買い取ってもらいたいとさえ思うね」
 にこりと笑われて、エドワードは絶句した。
 そんな少年を楽しそうに眺めていたロイだが、ふと思いついた顔になると、エドワードの手を勝手に取り上げた。びっくりした顔で見上げる少年の指を思うように動かし、ロイが自分の胸にかかせたその文字、つづりは、「売約済み」の一言。
 エドワードはへなへなと座り込んでしまった。手だけを持ち上げられた格好は間抜けだったが、もはや何も考えられそうになかった。
「お買い上げ、楽しみにお待ちしています」
 そんな呆然自失の少年に、ロイは店員のようなことを嘯いて、そうして持ち上げたままだった手の甲に敬虔なキスを捧げた。

 返済がその後どのようになされたかは、エドワードの荷物にロイの家の合鍵が加わったことから推して知るべし、と言ったところだった。
作品名:「払いません!」 作家名:スサ