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「払いません!」

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 怪訝そうな顔で見つめれば、ロイは不意に真面目な顔になって見つめ返してきた。そんな真剣な顔はあまり見たことがなくて、エドワードは無意識に背を後ろに反ってしまう。
 だが、ロイはコーヒーをベンチの反対側に置いて、エドワードが反った分を詰めてくる。
「――思いやりをくれる『友達』に迫るなんて紳士のすることじゃないだろう?」
「……………は?」
 エドワードは素直に首を傾げた。意味がわからない。
「借りがある相手に手なんて出せないしな」
 そんなエドワードの様子にはお構いなしでロイは続けた。ますます理解できなくて、エドワードは眉間に皺を寄せた。なんだかからかわれている気分だ。
「わからないかな…」
「うん」
 全然、と正直に答えたら、ロイは苦笑して体を離した。
「これだから」
「なんだよ!?」
 はあ、と呆れたように肩を落としたロイに、エドワードは食ってかかる。そうしたら、ロイに責めるような視線を送られ詰まってしまった。
「対等になってからじゃないと、キスも出来やしない」
「………はぁ?」
 エドワードは思い切り眉間に皺を寄せた。ますますもって意味がわからないが、やはりからかわれているのだろうかと。だがロイも踏ん切りがついてしまったのか、もうごまかしたりはしなかった。
「わっ…」
 気を抜いていたのもあるだろうが、唐突だったのも大きい。エドワードは、急に腕を引っ張られてロイの腕の中に落っこちる羽目になった。ロイのすごいところは、その瞬間にエドワードの手からコーヒーを抜き取って自分のそれの脇に置いているところだろう。
 こぼしたら火傷してしまう。
「な、」
「…借りを返したい理由を言っても?」
 じっと見つめられ、エドワードの頭は真っ白になった。もごもごと口ごもるが、それはひとつとして意味のある言葉になりはしない。
 しかし言われなくてももうわかってしまった。ロイが言っていた意味が、その目を見たら、息遣いを聞いたらわかってしまった。
 そうしたらもう頭がはじけてしまって思考は止まってしまった。
「…返させてはくれないか」
 エドワードは頷いてしまいそうだった。釣られて。
 だが。
「…駄目だ」
 口をついて出たのはもう、条件反射のようなものである。
 そして一度言葉を発すれば勢いもつくというもので。
「駄目だ!」
「……」
 ロイは素直に舌打ちした。うまくいきそうだったのに、とその顔には書いてある。エドワードは勢いをつけて、とん、とロイの胸を突き飛ばすようにして体を離した。
「…でも!」
 逃げるようにベンチから立ち去って、そして距離を開けたところでエドワードは両手を胸の前でぎゅっと握って必死な様子で言い募った。
「あ、あんたが、オレに借りを作るのは、ありだ!」
「……」
 ロイは瞬きした後、頭を抑えて笑った。
 隠すことも出来ずに頬を赤くし、肩を一生懸命に怒らせて強がる姿は目に楽しい。可愛いと素直に思う。
「じゃ、っじゃあな!」
 逃げるように掛けていく赤い背中に、ロイは目を細めて小さく笑った。…狩を楽しむ獣の目で。
「――返させてみせるとも」
 絆を、約束をくれたあの少年はロイにとって、多分彼が思うよりずっと特別なものになっていた。
 重みだなんて思ったことはないが、あの借りがある限り続く仲なのだと思われると微妙に困る。約束などなくてもこれから新しい約束や絆やらを築いていきたいと思い始めたら、一度イーブンの状態から始めずにいられなかった。
「楽しみだ」
 くつくつと、彼は喉奥で笑った。
 逃げるエドワードの頬の赤さを正しく連想しながら。


 一方逃げたエドワードはといえば、もうそれどころではなかった。
 当たり前と言えばそうだろう。
 闇雲に走って、エドワードが落ち着いたのはどことも知れない建物の隙間。そんな狭苦しい場所に落ち着いてしまう自分のミニマムさに一瞬落ち込んだが、しかしとにかく動悸はひどいし頭もまるでまとまらないしでひどい状態だったから、ぺたりと座りこんだ時には心底安堵した。
「…っくりしたぁ…」
 背中を壁にくっつけて、エドワードは大きく息を吐いた。
 まだ当分、動悸はおさまりそうにない。
「……んだ、あれ…」
 聞かない方がよかった気がする。いや、そうではなくて、本当は聞かなくてもわかっていたような気がする。
 自分があの約束をしたのは何のためなのか、そんなことを改めて考えると、ロイが自分にとって大切だから、という結論に至らざるを得ない。ロイがきちんと生きていてくれるように。諦めたりしないように。そう願っていて、それがすべてだと思ってはいたけれど、言葉にしてしまえばつまり、ロイが大事だったというそれに尽きるのかもしれない。
「大事って」
 エドワードは両手で顔をおさえた。
 …以前であれば頬を冷やしたはずの機械鎧はすでになかった。そのkとが、あれから時間が経っているのだ、ということを改めてまざまざとエドワードに感じさせた。
「………あー……」
 ぺたぺたと顔を叩きながら、エドワードは唸る。キスも出来やしない、そう言ったロイは、自分を「そういう」ものとして見ているのだろう。それを知らされて驚きはしたけれど、嫌悪感というものはなくて、エドワードは焦った。そんな馬鹿な、と思った。
「おい」
 あー、とか、うー、とか唸っていたエドワードだが、そうしていても埒が明かない。とりあえず今日は帰るか…、と腰を上げかけたとき、だった。誰かがエドワードにぞんざいに声をかけてきたのだ。
 なんだよ、と切り返そうとした時、そして一気に彼の冷静さを奪うような出来事が一瞬のうちに立て続けに起こることになる。
「聞いてるのか、チビ」
「誰がっ」
 怒鳴り返そうと飛び上がったエドワードの目には、なぜかにこやかな顔で両隣を見知らぬ厳つい男に固められたロイ・マスタングと、こちらを見下ろしている大男が写った。
「や、鋼の」
「何やってんだあんた…」
「人質」
「はぁっ?」
 それまでにこやかだったロイの顔が、急に不安げなものになり、彼は情に訴える顔つきでとうとうと語り始めた。
「いやそれが。こちらの怖いお兄さん方に捕まってしまってね」
「………正直に言え。どっちの女に手ぇ出したんだ」
「心外だなあ、そんなことはしていないよ。こちらの方々はテログループ赤の団の皆さんだそうだ」
「…はっ?」
「おう、兄ちゃんよ、おめえあいつのツレなんだろが」
 全方位から見てカタギではない男がエドワードに凄む。しかし事態がよくわからなすぎて、エドワードは眉間に皺を寄せるしか出来ない。さっきまでの悩みもこの際棚上げだ。
 とりあえずただひとつわかることは、ロイはこの事態を楽しんでいる、ということだ。
「…ツレっていうか…いや別に」
「そうだぞ、そこの彼は私と将来を誓った仲だ、連れなんて表現では当てはまらないな」
 ロイはのんびりと拘束されたままそんなことを口走った。
「誰がじゃ!」
 思わず突っ込んでしまってから、エドワードははっとする。このままではロイのペースだ。
「そんなことはいい、とにかくお前はあいつの身内なんだろうが」
 なんだか必死さを感じさせるテロリスト(らしい)の表情に、エドワードはおかしいな、と感じる。
作品名:「払いません!」 作家名:スサ