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No Rail No Life

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8929 ALL STARS/メトロとご近所さん



 そろそろお中元の季節だねえ、とはんなり小首を傾げておっしゃったのは、誰あろうメトロの重鎮で。結局彼の一言は常に鶴の一声というやつなので、ああそうかそんな時期なんだ、と他のメンツは行動を余儀なくされたのだった。


 メトロの各線はそれなりに他会社線とつながっている。
 JRはいわずもがな、同じ地下鉄である都営各線ともいくつかの駅で乗り換えができるし、東武や西武、小田急や東急ともつながっている。

 おつきあいというのはね、折々のご挨拶や贈り物を忘れてはいけないものなんだよ。サンタさんだってクリスマスは忘れないでしょう?

 と、重鎮は重鎮らしくおっしゃるわけだが、多分何割かは楽しんでいるだけなのではないか、と他のメンツは思ったりもしていた。サンタさん、というあたりが特に怪しい。まあ、全員が怪しんでいるわけでもないのだけれど。
 そして全員ではない筆頭は有楽町だった。
 銀座は、みんな、おつきあいのあるところには自分で選んできちんと贈ること、領収書はきちんともらってきてね、でないとお小遣いから天引きだから、とかわけのわからないことを言ってくれる。半蔵門などはそこまで言われているのに領収書を忘れてきて、給料天引きはなくなったらしいが、支出調書とやらを書かされていた。アホだ、と有楽町はストレートに思った。口には出さなかったが。
 とにかくそんなわけだから、贈答品の内容は自分で選ばなければならない。接続相手が少ない場合、もしくは相手がごくまともかあるいは面倒のない性質だったら、あるいはそんなに大変でもないのだ。缶詰かハムでも贈っておけばとりあえず問題ないのだから。
 だが、有楽町の場合、相手のバラエティがちょっと豊富だった。
 東上と西武に同じものを贈るわけにはいかないし(ばれたら厄介だ)値段に差をつけるのもまずい。ついでにいえば、銀座は何を思ったか、だって直通先で顔は合わせるんでしょう、とかいって埼京やりんかい、武蔵野までカウントに入れてくれる。まあ、この場合、埼京および武蔵野はJRでひとくくりにされ、東西が贈るからいいよね、ということで免除してもらうことになったのだが。ちなみに東西と総武はそれなりにうまくやっている、らしい?
だが、このままもしも東西が西武と乗り入れを開始したら西武にお中元/お歳暮を贈る役が東西に回るのかというと、それはよくわからなかった。
 まあそんなことはさておき、だ。
 とにかく有楽町は軽く憂鬱だった。
 大体、そもそも、連中に物を贈るためには買う場所も変えなければならないのだ。東上なら東武、西武なら西武だ。そこをたとえば高島屋とか三越にしてしまうわけにはいかないのである。…なんてめんどくさい! 全部マルイにしたろか! …なんてことは結局のところできるわけのない「イイヒト」な有楽町は、仕方なし、池袋にてそれぞれの百貨店に足を運ぶことになるのだ、年に二回は、必ず。(りんかいは、別に、なんでも文句は言わない。でも、普通ではない、だろうなと思ってはいる。思ってはいるけれど、とりあえず今のところ自分に害はないので特に深く何かを考えることはなかった)

「なあ、有楽町今年どうする? 夏の」
「あぁ…、…肉がいいって言われた、先に」
 ふ、とたそがれる有楽町に、半蔵門は瞬きした。そしてその横では日比谷が微苦笑を浮かべる。
「東武?」
「ああ。でも、東上も西武有楽町も肉がいいらしい。西武有楽町が肉が食べたいって言った以上、池袋も肉でいいんだろう…」
 日比谷も肉? と有楽町が首を傾げると、彼は眼鏡を直しながら小さく笑った。いくらか困ったように。
「うん。みんなで焼き肉するからそれ用のがいいって」
「…みんな…」
 呟きながら有楽町は眉根を寄せた。
 東武本線の「みんな」といえばそれなりに大所帯ではなかろうか。しかも、食事は戦争を地で行く様子じゃあなかっただろうか。
 有楽町は何も言わず日比谷と握手した。なんとなく切なかったのと、なんとなく、わかってしまったので。色々な何かが。
 日比谷も、黙ってそれを受け入れる。彼にしてもたぶん同じようなことを考えているのだろう。だからこそ、東武? と聞いてきたのだろうから。
 と、そんなふたりの様子に半蔵門が口を尖らせ割り込んできた。やることが相変わらずだ。
「なーんだよー、お前らばっかりわかりあっちゃって!」
 不平を鳴らす半蔵門に、有楽町がしみじみとした口調でこう返した。
「半蔵門は幸せだな、頭が」
「…なんだそれ、馬鹿にしてんのか喧嘩売ってんのか」
 有楽町のだいぶ失礼な発言に、半蔵門は当然眉をしかめたが、そんなことでいまさらあわてる有楽町でもなければ、動じる日比谷でもなかった。
「いや? ある意味本当に羨ましいぞ。ある意味で、だけどな」
「それ、わかるなー。ある意味で羨ましいよね、別の意味では全然羨ましくないけどさ」
 うんうん、と頷きあう有楽町と日比谷に、半蔵門が口をとがらせる。
「なにそれ! 感じわりぃな!」
 有楽町と日比谷は顔を見合せ、もう一度頷くと、半蔵門を無視して会話を続けることにした。どうせそうすればかまってもらえないことに我慢が切れるに違いない。
 案の定、三分ともたずに半蔵門は二人に「なぁなぁ、オレもまぜろってば!」とまとわりついてくるのだった。


「今年はみんなハムの人になるらしーぞ!」
 優雅にティーなど傾けつつ、銀座は丸ノ内の報告を聞いていた。そうして、ゆったりと笑みを浮かべる。
 ――彼らには贈答品を用意して挨拶する相手はいない。
 だからこそ、この毎度の馬鹿騒ぎを楽しく見守っていられる。勿論、自分たちの楽しみのためにこんなことを強要しているわけでもないのだけれど。
「ハムの人?」
「うん。肉ばーっかだった。リサーチしたら」
 銀座の足元にごろんと転がって、丸ノ内は面白そうに銀座を見上げる。
「じゃあ、丸ノ内には僕からお肉を贈るよ」
「ダッチオーブンもだぞ」
「…燻製でも作るの?」
「だから、ハムの人! メトロハム作るんだ、真中にMって入れるんだ」
 それは金太郎飴だ、なんてことは勿論銀座は言わなかった。
 微笑んで口にしたのは、別のことだ。
「そうなんだ。そうだ、そうしたらねえ、夏だからね、夏休みに入って学生がお休みになったら、いちにち、みんなでバーベキューしにいこうか」
「BBQ! オバ九!」
「丸ノ内、Qちゃんは夏は暑いよ、きっと。どこか水辺がいいよね。ふふ、僕らだって夏休みをとりたいものね?」
「おう! 腕を大きく振って背伸びの体操―、だなっ」
「ああ、ラジオ体操? そうだ、八月に入ったら、皆朝ごはんの前にラジオ体操しようか。僕、スタンプを捺してあげる。スタンプカードも作ろうね」
「銀座は先生か? PTAか?」
 ぱちぱちと瞬きする丸ノ内に笑いかけて、銀座は小首をかしげた。
「…六年生のおにいさん、かな?」
「じゃあオレは高学年のちょっとおにいさんだなー」
 言い合って、ふたりはくすくすと笑った。

作品名:No Rail No Life 作家名:スサ