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No Rail No Life

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Peace Keeping Operation/防災訓練をしてみましょう@池袋



 学校のみならず、企業や自治体でも大体年に一度くらいは防災訓練を実施するものだ。場合によってはいくつかの団体で合同訓練が行われることもあるだろう。近隣の、互いに連動する企業や組織団体などで。例えば鉄道路線と地方警察、消防という組織間において、だ。

 ――だからってなにもこいつらが合同でやらなくたっていいんじゃないか、有楽町はため息をつかずにいられなかった。いっそ膝から崩れ落ちてしまいたいくらいだったが、そんなことをしたら(言葉の)集中砲火(もしかしたら鉄拳つき)を食らうこと必至なので黙っていた。もっとも、ツッコミを入れる気力もなかったというのも確かなのだが。
 今目の前では秩鉄、東上、西武池袋が額を突き合わせて避難経路や計画の段取りを相談中だ。有楽町も一応は話し合いに参加しているわけなのだが、実際の所口を出してもろくなことにならないのでさきほどから発言はしていない。
 それに、秩鉄がまざっている時点で、案外話し合いはスムーズなものになっているのだ。東上が自ら西武池袋に喧嘩を吹っかけることを自然と自粛しているために。ちなみに山手と埼京がいないのは、「JRは呼んでも遅れるから最初から呼ばない」という東上と西武池袋の鶴の一声によって決まった。(東上は埼京と仲がいいようだったのだが…仕事と友情は別物なのだろうか。それとも他のJRのせいでそう思うようになったのか、それはわからない)
 …なんだか、切ない。色々な点で。
 ちなみに有楽町の斜め後ろでは、既に最初から話し合いに参加する気がかけらもない副都心が書記を名乗り体のいいさぼりを実行中だ。昨年くらいまでは、そういうのは有楽町の役目だったのだが。喜んでいいやら悪いやら…。
 防災訓練は池袋を想定して東武西武合同で行われることになっていたので、とりあえず武蔵野は顔を出していない。もっとも、呼んだ所できちんと来るのかどうか甚だ疑問ではある。そもそも、山手と埼京がいないのに武蔵野を呼ぶ必要性などないだろう。
 しかし越生は当然のようにいた。ただし、話し合いに参加するまでには至っていない。さすがにわきまえているのかもしれないし、秩鉄効果でおとなしい東上が面白くないのかもしれない。多分後者だろうと有楽町は思っている。
 まあとにかく、だ。
 防災訓練計画は、特に大きな問題もなく進められていた。たぶん、きっと、それはいいことだ。

 ――そうはいっても東上と西武なので。
 最後はやっぱり喧喧諤諤のやりあいになったりもしたのだが、それでも秩鉄効果なのか、副都心効果(皮肉と嫌味を双方に浴びせることで東上と西武池袋の心がひとつになる、というマイナスの効果)なのか、役割分担と段取りは滞りなく取り決めされた。
 有楽町がなんともいえない複雑な気分になったことは言うまでもない。

「お前、メット似合わないな…」
 東上からの哀れみを含んだ眼差しに「ほっとけ」と答えつつ、有楽町はA4一枚にまとめられた避難訓練計画に視線を向けていた。
「有楽町、お前それ名前と所属書いてないぞ」
「色が入ってるだろ。有楽町線カラーが」
「有楽町、それライン途中で切れてる」
「切れてるんじゃなくて、そういうデザインなの。マーク入ってるでしょ」
「有楽町、それ血液型書いてない」
「ないだろ血液型とか…、なんだよ、もう」
 珍しく(自分に対するにしては、という意味で)しつこいな、と思い渋々顔を上げれば、東上が有楽町のメット姿をまじまじと見つめていた。よほどに珍しいのだろう。まあ、自分でも珍しいとは思うが。
「頭のとこ浮いてる、アジャスタあわせたのか?」
「ゎ、…と、できるって!」
 有楽町のメットの紐に東上が手をかけてきたので、慌ててそれを抑えると、はからずも東上の手を有楽町が握る形になった。東上はといえばきょとんとして捕まえられた手を見て、有楽町もとっさの行動に自分で反応できなくなる。
「――なにやってるんです?」
 と、そんな二人の背後から、紙袋のままなのでメットがない副都心が音もなく現れ唐突に声をかけてきた。
「わぁっ」
 有楽町は慌てて声をあげ、東上の手を離すはずが、逆に強く握って引き寄せてしまった。当然、無防備だった東上はそのまま前につんのめる。そして、行く先などひとつしかない。
「いっ」
 がす、と東上のメットに顎を直撃された有楽町は、哀れな悲鳴をあげ絶句する。相当に痛かったらしい。勢いがついていたのがまたよくなかったのだろう。
 しかし東上は東上で、メットがずれこんできて視界がふさがってしまい、わけもわからず有楽町の腕の中に崩れてしまったのだから軽くパニックだ。うわあ、と声をあげてこぶしを振り回すものだから、有楽町はさらに第二撃を食らう羽目になった。…常に不憫な有楽町である。
「おやおや、訓練の前に早速微小災害ですか?」
 くすくすといやみったらしく言う副都心に物申そうとした有楽町だったが、東上が口を開くほうが早かった。
「違う!」
「へぇ、そうなんですか」
「訓練はもう始まってるんだ! …それだけだ」
 自分のメットの位置を直しながら、東上はぷいっとそっぽを向くと、たたっと小走りに逃げていってしまった。なんとなく追いすがる感じで片手を伸ばした有楽町だが、…まあ後でフォローしよう、と頭を切り替え、落としてしまった段取り表を拾い上げる。しわになってしまった部分を直しながら、開始時刻やアクションを確認していく。
「しかし、気に入りません」
「なにが」
 紙から目を上げることはなかったが、基本的に愛想のいい有楽町は、一応返事はした。
「なぜ僕の車両で事故発生、という設定になるんでしょうか。東武車両の方がどう考えても古いじゃないですか」
「複雑なシステムほどもろいってことだろ。古いもんてのは案外頑丈だからな。それに、新しいものを重点的にチェックするのは現場主義的には正しいんじゃないか? 3Hってやつ?」
 有楽町は落ち着けとばかりさらりと流した。大体こんなことで目くじらを立てていたら、あの難しい連中とは付き合っていけない。有楽町はもはや、彼らに対してそうやって気を遣うことがあまりに自然なことになっていて、腹が立つことは特に何もなかった。
 …もちろん時折、ちょっと切ない気分になることくらいはあるのだが。本当に、時々。
 そんな有楽町に、幾分あきれたような口調で返答がある。
「ずいぶん物分りがいいんですね」
「いちいち腹を立ててたらもたないだろ」
 有楽町はそこで顔を上げ、まあそのうち、と小さく笑った。
「お前もわかるよ。あいつら面倒だしめちゃくちゃだけど、たまにかわいいんだ」
「……………………かわいい?」
 気負いなく言い切った有楽町に対して、副都心はわずかばかりとはいえ驚いたようだ。
「……先輩って………Mなんですか?」
「なんでそうなるんだ」
「あれだけ面倒かけられててそんな感想が出てくるなんて、博愛主義かドMのどちらかしかないかと」
「じゃあ博愛主義でいいじゃないか。なんでMになるんだ。しかもいまドってつけたのはどういうことだ」
「あなたは別に博愛の人でもないと思ったので。きちんと利己的な部分もあるでしょう?」
 相変わらず遠慮のない物言いに、有楽町はため息をついた。
作品名:No Rail No Life 作家名:スサ