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No Rail No Life

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【りんかいと埼京】


「だーれだ」
 背後からそろりと近づいて、子供みたいに他愛ない仕種で目を隠した。
 それまでどこか遠くを見ていたようだったし、いつものように耳には音楽があったから、少しは驚いてくれるかと思ったのだけれど。
「遊びにきたの?」
 目隠しした手の上から添えられたのはひんやりとした手で、笑いまじりの口調はかけらも慌ててなんかいなかった。
「僕はかまわないけどね。君のとこはあんまりふらふらしてると怒られるだろう?」
 ぶぅ、と頬を膨らませて、埼京はりんかいの背中に抱き着いた。目を隠していた手は外して。
「埼京?」
 軽く首を捻った彼の視線はふわふわした髪に向けられる。
「ずっこい」
「?」
「もっと! …驚いてくれてもいいじゃない!」
 りんかいの肩口、うらめしげに顔を上げて埼京が訴えたところ、…りんかいは一度瞬きした後芝居がかった様子で口を開く。少しだけ首を傾けて。
「…わぁ。とても驚いた。埼京だったんだ」
 これでどう?とばかり細められた目から、埼京は思いきり顔を背けた。

 結局ホームの柵に寄り掛かりながら、拗ねたような埼京にキオスクで買った板チョコを渡してりんかいは笑う。罪のない繰り言を聞きながら。
「りんかいはさ! もっと驚いたりとかさ、しないの!?」
 埼京はバリバリとチョコをかじりながら上目使いに詰ってくれるのだけれど、口の中に甘みが広がる瞬間ばかりはどうにも怒りが持続しないらしく、目がふにゃりと溶けてしまう。
 りんかいはくすくす笑って答えた。
「驚いてるよ。毎日」
「嘘ばっか! それって何時何分何秒?! 地球が何回回った時!? 僕見たことないもん、そんなの!」
 ぷい、とそっぽを向く、その唇の端に甘いかけらを見つけてりんかいは目を細めた。
 そして見つけたら迷ったりなどしなかった。
「…ぅひゃあ!?」
 顔を近づけぺろりと舐めとれば、埼京は変な声を上げて赤いパッケージの板チョコを放り投げた。
 それを危なげなくキャッチして、りんかいは愉快そうに笑う。
「今も。甘くて驚いたよ」
 へなへなと腰を抜かした埼京に手を延べながら、彼は実に楽しげな顔を見せたのだった。

作品名:No Rail No Life 作家名:スサ