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No Rail No Life

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I・M・S・A・F・E[アイアムセイフ]/上官さん



【ILLNESS/病気】


 季節柄風邪はけして流行ってはいなかったけれど、季節の変わり目といえばそうだったし、そして寒くない今の時期の風邪は案外治りにくく長引くのが世の常だった。

「東海道、風邪?」
 書類の受け渡しの途中、咳き込んだ東海道に眉をひそめたのは秋田だった。
「…いや。部屋が乾燥しているからだろう」
 片手を挙げて制した東海道の声は、明らかにかすれていた。秋田は呆れたように溜息をつく。実際呆れてもいたのだけれど。
「あのねえ。声変わってるけど?」
「風邪などひいてない」
 少々ぶすっとした顔で唇を引き結ぶのを見て、秋田は再び溜息をついた。
「あのね…意地っ張りも大概にしてよ。君が風邪を引いたら皆が肺炎でしょ」
「…夏風邪なんてひいてない」
 今度はいくらか弱い勢いで、しかもばつが悪そうにそっぽを向いてぼそりという。夏風邪、という言葉で秋田にも閃くものがあった。なるほど、と。
「東海道」
「…」
「僕は君が馬鹿とは思わないけど」
 嫌そうに顔をしかめるのを見て、まったく、と秋田は今度は困ったように笑った。大方、夏風邪をひくのは、なんていう俗信で馬鹿にされるのが死ぬほど嫌で認めたくないのだろう。この王様は。
「でも、治さないで放っておいたら、本当にただの大馬鹿だと思う」
「う…」
 ぐ、と詰まった、焦った顔に秋田は笑った。そうして、ちょいちょいと手招きをする。それに渋々という形で従って、東海道は二歩くらい秋田に近寄った。
「ちょっとごめんね」
「…!」
 秋田はするりと手袋を抜くと、ひたり、と東海道の額に掌を置く。ひやりとした感覚に思わず目を細めた東海道と対照的に、秋田は眉をひそめて少しだけ怒ったような顔になる。
「…ちょっと!」
「…」
 額から手を離すと、秋田は今度は両手で東海道の頬を挟んだ。あまりのことに目を見開いて言葉を失った東海道に対して、今度こそ眉を吊り上げ秋田は声をきつくした。
「熱あるじゃない! なにしてるの、ほんとにもう!」
「いや、そんなにたいしたことは」
「たいしたことじゃないかどうかは僕が決めます、だって君、今判断力なんか絶対鈍ってるもの!」
「……」
 東海道は逆らえないものを感じて、けれども仕事のことがどうしても忘れられず、ええと…、と視線をさまよわせる。しかし秋田は容赦がなかった。根底にあるのは間違いなくやさしさなのだけれど、間違いなく容赦はなかった。
「ちょっとこっちきなさい!」
 有無を言わさず東海道の腕を掴むと、半ば引きずるような勢いで引っ張っていく。東海道は思わずよろめいてしまったが、辛うじて転ぶことはなく引っ張られていく。
「あ、秋田、」
「えーと、まずは医務室かな、ああー、でも本当はすぐ病院でも行かせたいくらいなんだけどなあ」
「注射はいやだ…!」
「子供じゃないんだからわがまま言わないの。疲労だったら栄養剤点滴したら多少よくなるかなあ、後は抗生物質かぁ…」
「点滴もいやだ…! 針はきらいだ!」
「なあに、先端恐怖症?」
「そ、そうだ」
「ふーん。…言うこと聞かないとコンパスの針目に近づけるよ?」
 秋田は一端足を止めると、にっこり華やかに笑って脅迫した。秋田がそんなことをするはずがないのだが、彼が指摘したように判断力が鈍っている東海道は一瞬本気にした。そして、いやだ…、と目を潤ませる。
 これは本当に風邪だなあ、と秋田が内心溜息をついたのはいうまでもない。

 とりあえず医務室に連れて行き、やはり風邪だという診断を受け、すぐに近場の病院へ連れ込んで強引に点滴を受けさせた。何しろ東海道は細すぎる。別に弱いということはないが、そもそも激務なのだ。疲労はたまって当然だし、自覚症状も遅いときている(倒れるまで認めないという意味も含めて)。早々に手を打つのにこしたことはなく、秋田はその迅速な処置について、自分を褒めてもいいくらいだと思っていた。

「…針はいやだ…」
 点滴が終わったというので迎えにいった(山形に頼もうかと思ったが、生憎と彼は捕まらなかったのだ)秋田に、東海道はうらめしげに訴えた。弱弱しい声がおかしくて、秋田はつい噴出してしまった。そうしたら当然のようにむくれられてしまったのだけれど、なんだか小さな子供のようでかわいかったのだからしょうがない。
「わらうな…、わたしはいつも点滴や注射が下手な看護婦にあたるんだ…お前にあの痛みがわかるのか…」
 完全に拗ねてしまった王様に、秋田は「ごめんね」と素直に謝った。
「後で林檎、ウサギにむいてあげるから。許してね」
「…そんなものでだまされない」
 むす、と寝返りを打ってしまった東海道の顔を上から覗き込み、秋田はそうっとその額に手を置いた。さっきよりは随分と下がっている。
 後は薬を持って帰って、飲ませるのは自分でなくて誰かの役目としてもかまうまい。
「ちょっとさがったね、よかった」
 目を細めて笑えば、戸惑うような顔で東海道が瞳を揺らした。
「――ね、起きられる? タクシー呼んであるから」
 肩に手を回しながら優しく、宥めるように言えば、渋々という表情で東海道は半身を起こした。スリッパを揃えてやりながら、秋田は内心でこそりと笑う。随分と素直なものじゃないか、と。
 いつもこれくらい大人しければ手間もかからないんだけど、とちょっとだけ普段を振り返りながら、それについては何も言わず、とりあえず林檎を買わなくちゃ、京浜東北にでも買ってきてもらおうかなぁ、とだけ秋田は呟いた。
作品名:No Rail No Life 作家名:スサ