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No Rail No Life

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【MEDICATION/服薬】


 ――東海道が風邪ひいちゃったんだ。

 憂い顔で言った秋田は、はい、と至極当然といった様子で東北の手に内服薬を落とした。
「…」
 東北は微かに眉をひそめて秋田を見る。これで、説明を求めているのは十分に伝わったはずである。秋田は、しかし。
「よろしくね?」
 にっこり笑って首を傾げると、それ以上のことを言おうとしないのだ。まあ、聞かなくても確かに、求められていることがなにか、ということはわからないでもなかったのだが…。
 東北は仕方なし、溜息をついてから、億劫そうに口を開いた。
「飲ませればいいのか」
「そう。東海道、薬も嫌がるんだもの。山形は向うで何かあって帰ってこられないみたいだし、しょうがないよね」
「………」
 それでなぜ自分が、とちらりと東北は思ったが、まあ自分だろうか、と再度溜息をついて納得した。上越は論外だし、長野にそんなことをさせるのもどうかと思う(ただ、長野がもっていけばあの意地っ張りは素直に飲むような気もするのだが)。山陽だと喧嘩になりそうだが、付き合いが長いわけだから、コツも心得ているだろう。山形がいない以上自分か山陽だろうとは思ったが、秋田は東北が適役と判断したようだ。確かに、あまり喋らない分、自分の言葉には多少の重みがある、ということを、ある程度客観的に東北は理解してもいた。勿論、重みを出すために喋らないわけではないのだが。
「…了解した」
「ありがとう! あ、そこの林檎ももっていってね?」
 林檎? と東北が視線を向けた先には、ウサギの形にカットされた林檎があった。これを? と微かに眉をひそめて無言で問いかければ、それ、とにこやかに頷かれた。
「…承知した」
 軽く溜息をついて頭を振ると、東北は薬とミネラルウォーター、ウサギ林檎の皿を持ってきびきびと歩き出した。背筋の伸びた後姿は颯爽としていて、より一層、手にもった盆の上のウサギ林檎とのミスマッチ感が際立っていた。

 ノックは二回。
 管理用の鍵を借りてきたので、そのまま開ける。東海道は寝ているかと思ったが、物音で目を覚ましたらしい。遮光カーテンのせいで薄暗い部屋の中、ぼんやりとした目がこちらを見ているのと視線がかちあった。
 東北は足音を立てずに近づいて、テーブルがこぼさないように枕元に盆を置いて、自分は床に膝をつく。
「…調子はどうだ」
 寝込んでいる相手に無言で意思を汲めというのは酷な話なので、低く短く問いかける。東海道は何度か瞬きをした後、こくりと頷いた。頷かれては意味がわからない。だが、見る限り顔に赤みもないし、恐らくは疲労だろう。風邪というよりも。
「昼は食べられたのか」
「…」
 わずかに首を振られた。随分と素直なものである。誰だって弱まるといやに素直になるものだが、東海道は普段との差が大きすぎるようだ。
 ――もっとも、そんなことは、あのメンタルの弱さを思えば当然なのかもしれないけれど。
「…林檎は食べられるか」
「…ウサギか?」
 初めて口に出した言葉がやけにかわいいものだったので、東北は思わず目を瞠ってしまった。それから皿の上を見て、もう一度東海道を見て。これをもたせた秋田の訳知り顔を思い浮かべて。
 そうして、ゆっくりと頷いた。
「……たべる」
 その顔が無防備だったので、これは、と東北はわずかに苦笑した。
 あのヒステリーのような泣いている姿もとても表に出せたものではないが、こういう弱ったところもまた同じくらい外に出してはいけない部分だろう。信頼されているのかどうかわからないが、気をつけてやらなければいけないだろうな、と自然に思ったのは確かだ。
「林檎を食べたら薬を飲め」
 半身を起こすのを手伝ってやって、枕を背中に当ててやりながら、東北は諭すように言った。すると、なるほど、秋田がいうように、東海道は眉根を寄せた。それは薬が嫌い以外の何物でもない反応だ。
「…飲め」
 東北は最後の部分だけもう一度、厳格に繰り返した。けれどもしゅんとしているのがどうしてもかわいそうになってしまって、無意識のうちに手を伸ばし、東海道の頭を撫でていた。残念ながらあまり器用な仕種ではなかったけれど、東海道は大人しく撫でられていたので、きっと嫌ではなかったのだろう。
「…飲んだら治る。治れば、飲まなくていい」
 やはり不器用に、ぶっきらぼうにそう告げると、東海道はこくりと頷いた。
「…早く治せ」
 最後に出てきたひとことは、しみじみとした、芯から案じているような声で紡がれて、静かな部屋にしみこんでいった。
作品名:No Rail No Life 作家名:スサ