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覚えていたい唯一の

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たまにはこういう話。


「僕はね、本当は、誰か人が死ぬところを見るのも、虫が、死んでいるところを見るのも同じくらい嫌いなんだ。何か、誰かが死ぬのは嫌だ」

「何を言ってるんだか。君のせいで死んだ人は少なくとも3人いる。なのに今更何がが死ぬのを見るのは嫌だなんて、傲慢すぎてびっくりするよ。君の心は一体どうなっているんだい?」

「例えばさ、こいつ、このカマキリが、何かに踏まれて死ぬとするだろ? その死骸を見ると、泣き叫びたくなる、それぐらい、嫌い。人間が死ぬのはもっと嫌だ。さっきまで普通に体温もあって血も流れてて呼吸もして喋ってさえいたものが、あっという間に体温も血も奪われて呼吸が止まって喋ることは愚か動きもしない。大嫌いなんだ」

「まったく君らしい愚かな言だね。今まで自分のやってきたことを忘れた? そうとは言わせないよ、何故なら君は解放軍のリーダーだった。戦に出る時もあの軍師は君の命令を待っていたんだ。結局命令を出すのはいつも君で、君は他の大勢と多くの人間を屠ってきた。それが君だ。君の真実だ」

「僕のせいで死んだ人間は3人どころじゃない。もっと大勢だ、数え切れないくらいの人間が、僕がいたから死んだ」

「虫も人間も同じさ。息をすれば動きもする。人間は常に何かしら殺しながら生きているのさ」

「本当に、とんだ偽善者だ。偽善も良いところだ。僕が何をしたって、それは人を殺しただけだ。やっていることは、帝国と……ウィンディと同じだ!」

「その通りだね。だけど君は君だ。帝国でもウィンディでもなくて、一人の人間、個人だ。君のその汚れた手は一生綺麗にはならないだろうけど、だけど君を否定することを僕はしないよ。少なくとも君は大多数の為に戦った。今更敗者が何を言ったって、敗者に何を言われたって、すべては勝者の言ありきだということ。勝ったほうが正義だ。僕は君を否定しない」

「…………まったく僕は君が大嫌いだよ。言うことは簡単に否定するクセに、僕を否定しないんだから」


作品名:覚えていたい唯一の 作家名:きじま