君と僕
まるで夢のようだと思った。
体は妙な浮遊感に包まれて地に足がついている感じがしない。ああそうだ、ここはたしか。
──君と僕──
もういつだったか分からない程の昔、僕はいろんな人と関わっていた。
その時いろんなことを言われていたのを、僕は思い出した。
彼の人はかなり遠くにいるはずなのに声はやけにはっきりと聞こえて。
誰かは言う。無理しなくていいと。
誰かは言った。頑張りすぎなくてもいいと。
誰かは告げた。君は希望だと。
誰かが裏切った。もう涙は見たくないと。
誰かは言ったかもしれない。もう戦は嫌だと。
誰かに言われた。君は気楽でいいねと。
誰かを見捨てた。あなたは生きなさいと。
それでも彼は言うのだ。僕は君を否定しないと。
まるで甘言の如くに染み込むそれはまるで夢のようだった。
意識、
焦点が拡散して空がどこまでも広がった。いつの間にかここは。こわい。こわい。こわい。
ここはどこ。知らない。だって僕の足は地についていない?
自分がここにいるのかいないのか分からない。
存在、
頭が痛い。ここに自分を知る者はいないと考える己の思考が怖くなる。
意義、全てが薄れていって。
それでもこれは知りすぎた気配。まさかと思った。
彼は僕の目の前で死んだはずだというのにどうして今になって彼の紋章の気配がする? 彼の気配が。
すぐ後ろに迫っている。
なんて懐かしい。
だけど振り向けば誰もいない。
その事実に気付いた瞬間、拡散した焦点は一気に見据えるべきものを見つけ、まがいものの彼の気配を通り越した、いつの間にここに来ていたのか彼の死んでいった石柱を、目を見開いて見つめた。
この身体は僕のものじゃない。僕はこんな場所に来たくなかった、彼の死んだ場所なんて見たくなかった。
目が、くらむ。
僕は誰だ。今ここにいる僕は、一体どこの誰なんだ。
もう問い掛けることの出来る人はいない。さっきまで共にいた彼も先刻どこかへ行ってしまったから。
それに皆死んでしまったんではないか?
自分が今見ているのはこの世界。だけど現実ではないだろう。
手をすべる汗が気持ち悪い。服を握り締めて汗を拭ってもべたついた感触は消えず気持ち悪いまま。
いつかの冬の朝、それでも君と僕はここにいた。
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