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【All is fair in love and war】

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【All is fair in love and war】

まろにー



 化け物の相手をするのは本当に疲れる。


「本当にしつこいよ、シズちゃん!」
「てめぇが死ねば終わりだああああ!」
 怒声と共に投げられた標識を臨也は「おっと」と左に身をかわした。今まで臨也が居たそこに標識が刺さる。
「それより先にシズちゃんが死ねばこの追いかけっこも終わりになるんじゃない?」
 振り向いてそう言うと、静雄が肩で息をしながら「ふざけるな!」と、叫んだ。
 生死を賭けた追いかけっこは、二人が学生の頃から延々と続けられていた。お互いそう簡単に引くわけにはいかない。
 池袋の街角で対面した二人は一定の距離の元で会話する。
「こんな争い、不毛だと思わない?」
「だから、てめぇが池袋に来なければいい話だろうがっ!」
「うん。俺もね、出来れば来たくないよ。毎度毎度こうやって追い掛けられるのも疲れるしね」
 肩を竦めて溜息を漏らす。羽織ったコートのポケットに手を入れて、俯く。
「だったら何できやがる……!?」
 化け物の唸る声でそう問うた静雄に、臨也はゆっくりと顔を上げて言った。
「ひ・み・つ」
 ブツリ、と何かが切れる音がした。と、同時に化け物の吼える声が街角に響き渡る。それは追いかけっこを再開する合図となった。


  ◆ ◆ ◆



「化け物を倒す方法っていうのは過去現在で色々伝承されてきているけど、ああいうのを殺す方法っていうのは何処に載ってるんだろうね。波江さん」
 事務所の定位置にある椅子に腰掛け、分厚い本を捲りながら臨也が問いかけた人物――矢霧波江はパソコンから目を離さないまま答えた。
「さあ、それに似たものを参考にすればいいんじゃないの」
「例えば?」
「そうね。狼人間とか近いんじゃないのかしら? 怪物的な力から言って」
「駄目だよ。狼人間はナイフが効くでしょ? あれにそんなの効かないんだもん」
 本当に困ったもんだね、と本を閉じるのと一緒に目を閉じた臨也は背凭れに体重をかける。軋む音が鳴った。
「じゃあ、諦めなさい」
「波江さんってば冷たいなー。雇用主の生死に関わる問題だよー」
「だったら、言われた通りに池袋に行かなければいい話じゃない。何やら企んでる事も別段あなた自身が頻繁に池袋に行かなくちゃいけないわけでもないでしょう」
「まあ、ね」
 急に歯切れの悪くなった雇用主に、波江はパソコンから顔を覗かせる。臨也は窓の外を向いており、その表情は波江には見えなかった。


  ◆ ◆ ◆


 知能犯だと自身で分かっている臨也は、だからこそ静雄のような力のみを向けてくる相手が苦手だった。言いくるめようにも、彼にはそれが通じない。兎に角逃げるなりしてやり過ごすしかないのだ。


「だから、化け物は嫌いだよ」


 でも、だからこそ、賢いからこそ手に出来る手段もあるのだ。
 臨也の手にあるのは小さな小瓶だった。中には透明な液体が。机の上にはナイフが置かれていた。
 それを眺める臨也は赤い舌でペロリと唇を舐めた。
「さーて、どうなるのか……楽しみだね」
 伝承は当てにならなかった。ならば、自身の頭で考えてあの化け物を倒す方法を見つけるしかない。
 臨也が見つけた方法は、しかし、後の人々に語られる事はない、伝えるわけにはいかない手段だった。


  ◆ ◆ ◆


 喧騒の池袋。それはいつもの光景で。日常であった。
 静雄も日常の中、今日一日を過ごしてきた。
 取立ての仕事を終えて、トムと別れた静雄はマクドナルドへ向かう途中でサイモンに捕まり、露西亜寿司へ訪れた。
 目の前に出された寿司を黙々と食べる。途中で想像よりきいていた山葵に涙目になりながら、それでも美味しいと思いながら食べ続けた。

――今度はトムさんと来よう。

 最後の玉子を食べ終えたところで静雄はそう決めた。
 サイモンに見送られて店を出た静雄は何処へ行くでもなく、歩き出した。
 胸ポケットから取り出した煙草に火を点けると、静雄の歩いた後には煙の匂いが残り香のように漂った。それを辿る様に、静雄から離れた後ろで軽い足取りの人物が目立つその姿を確認してにんまりと口角を上げる。
 ファーのついたコートを着込み、臨也は静雄との距離を少しずつ縮めていった。
 普段なら決して自ら静雄に近づくことのない臨也だ。この光景を二人を知る人物が見れば奇妙だと、顔を顰めるに違いない。そして、間違いなく静雄に言うだろう。「逃げろ」と。
 だが、生憎今二人の周囲には静雄と親しい人物は誰一人として居なかった。
 ある程度の距離まで近づいた臨也はそれ以降只ただ静雄の歩調に合わせてつかず離れずを保つ。
 静雄の足は次第に人気のない場所へと向かって行った。
 コンビニの前で屯するカラーギャングらしき青年達。電灯に凭れ掛かり、誰かと電話をしている女性。背中に羽根を生やした女子高生達。慌しく駆けていく少年。
 それらの横を通り過ぎ、静雄が足を止めたのは誰も居ない薄暗い路地裏だった。静雄の目線の先にはブロック塀が。


「なーんだ。気づいてたんだ、シズちゃん」


「……あったりめえだ。てめぇのくっせえ匂いは池袋の何処に居たって分かるんだよ」
 ゆっくりと振り向いた静雄は既に歯をむき出しにして、応戦態勢に入っていた。肩を竦めて見せる臨也は全く怯んだ様子はない。
「匂いって……。色々ツッコミたい所はあるけど、今日のところは見逃してあげるよ」
「で、何の用だ。俺に殺される決心がついたのか? わざわざ後を着けてくるなんてよぉ」
「俺はね、人を殺す覚悟はしていても、シズちゃんに殺される覚悟は一切してないよ」
 ペロッと舌を出したその行動に静雄は青筋を一本増やした。
「今日はねシズちゃんにプレゼントを持ってきたんだ」
 そう言って臨也はコートの中からいつものバタフライナイフと、そして小さな小瓶を取り出した。小瓶を振り、中身の液体を見せ付けるような行動に静雄は小首を傾げる。
「これが何か気になる?」
 それに返答をしない静雄は、しかしナイフよりも小瓶に視線が釘付けだ。ナイフは大した効果を得ないことは自身でよく分かっている彼は、それよりも妙に自信有り気に見せつけてくる小瓶の方が注意すべきだと判断したのだ。
「ふふ。これはね、こうして使うんだよ。まずは、っと」
 片手で器用に小瓶の蓋を開けると、その中身をナイフの刃に満遍なくかける。滴り落ちた液体がアスファルトに染み込んでいく。
 一振りし、横に構える。勢いで雫が飛び散り、数滴が静雄の頬に飛ぶ。顔を顰めた静雄が拭おうと手を上げた瞬間だった。
「で、こうするんだ」
 声が耳元で聞こえた時には、静雄が自身の体に違和感を感じていた。ゆっくりと見下ろせば、臨也が嫌味な笑みを浮かべてナイフを脇腹に突き立てていた。
「臨也、てめぇ…」
 唸り声を上げた静雄の拳が命中する前に、臨也は身を退き、がら空きになったその背中に再びナイフを突き立てた。痛みに静雄は顔を顰める。しかし、それで倒れる静雄ではない。そうであれば臨也の頭をこうまで悩ます事もなかっただろう。